未来社会の道しるべ

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「外国とは西洋先進国のこと」という錯覚

このブログで最もアクセスされた記事は「変化のスピードが恐ろしく遅い時代」になります。ただし、犯罪カテゴリの記事を書き始めてからは、「土浦連続殺傷事件犯人家族は典型的な日本人」と「『秋葉原通り魔事件の犯人の母の罪は取り返しがつかないものだったのか』また』犯人に彼女がいれば秋葉原通り魔事件は起こらなかったのか』」が圧倒的に多いので、遠くないうちに、この二つの記事が最もアクセスされる記事になるでしょう。

現代の日本が恐ろしく変化の遅い社会であることは客観的に考えれば明らかです。しかし、「やばいデジタル」(NHKスペシャル取材班著、講談社現代新書)という本でも「将来なりたい職業に『ユーチューバー』が登場した当初、それは衝撃的なニュースだった。だが瞬く間に常識と化している今の光景に時代の加速を見る」という文章が出てきて、落胆しました。現代日本で「時代が加速している」と堂々と公共放送が述べていることこそ、現代日本で「時代が減速している」事実が現れている気がします。つまり、現代の日本で「時代が減速している」から、世界のデジタル進化に「時代の加速」を感じてしまうのでしょう。

この2020年放送のNHKスペシャルの本では、COCOAのダウンロード数が伸び悩んだことも記事にしていますが(2022年9月には役立たずのままCOCOAの終了が決まりましたが)、「やばいデジタル」のタイトル通り、「デジタル化の加速でプライバシーが脅かされる」との警告メッセージばかり発しています。

日本を含む先進国で、この30年ほど、身の回りの商品、いわばアナログ世界で大きな進化はありませんでした。この30年ほどの一番大きな進化はIT分野、つまりデジタル世界で生じました。そのデジタル世界で日本が大きく遅れを取ったことは、NHKスペシャルを放送する記者なら十分に知っていなければなりません。ならないはずなのですが、デジタル化の遅れを心配せずに、デジタル化の普及を心配する報道をしてしまっています。

確かに、欧米先進国では、莫大な富を稼ぐ多国籍IT企業にプライバシーの観点などから警笛を鳴らす報道が多くあります。だから、欧米先進国はIT技術進歩の恩恵が十分に得られていなかったりします。現在、IT技術進歩の恩恵を最も受けているのは、もともとプライバシーなどの人権をあまり気にしていなかった韓国や中国などの新興国です。多国籍IT企業の多くはアメリカを本拠にしていますが、アメリカ全体でみれば、プライバシーの侵害などデジタル化の負の側面を気にしすぎるあまり、ITに関して韓国や中国などから一歩も二歩も遅れています。結果、一般的な韓国人や中国人は、一般的なアメリカ人よりもITにより便利な生活を手に入れています。プライバシーを失うデメリットよりも日常生活が便利になるメリットが明らかに大きいことも、普通に考えれば分かります。

だとしたら、ITに関して今の日本が見習うべきは、欧米先進国ではなく、韓国や中国などの新興国のはずです。しかし、NHK取材班は新興国も取材しているのに、そんな視点を持つことができません。韓国や中国が欧米よりもIT社会で進んでいることを認識できません。「外国とは西洋先進国のこと」「見習うべきは欧米先進国」という発想から抜けきれない固定観念の強い日本人ジャーナリストは欧米先進国の古いジャーナリストのマネばかり続けているようです。

日本人が「外国とは西洋先進国のこと」という幻想から脱却できるのはあと何十年必要なのでしょうか。