未来社会の道しるべ

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日本経済の成長も衰退も全ては人口動態が根本原因である

1990年頃は日本の存在感が世界で最も大きかった時代です。欧米諸国、特にアメリカの少なくない知識人は日本に追い抜かれる、あるいは、追い抜かれたと本気で考えていました。

日本人はアメリカ人より努力家で勤勉であり、停滞するアメリカと違い、日本は絶え間ない技術革新により経済成長を遂げていました。経済だけでなく、黒人問題や犯罪率の高さに社会全体が苦しみ、冷戦終結で莫大な防衛費の使い道に悩むアメリカ政治と異なり、犯罪率が低く貧富の差は少なく、何十年も戦争していない日本政治は安定していました。日本のテレビゲームはアメリカだけでなく世界中で遊ばれており、日本人はアメリカのルールや習慣をよく勉強し、それを自国に上手く取り入れていますが、アメリカ人は日本のルールや習慣をほとんどなにも知らず、当然、自国に取り入れることもできていません。文化的にも、アメリカは日本に負けていました。

第二次大戦で完膚なきまでアメリカに敗れ、その後、常にアメリカを目指して頑張ってきた日本人たちは1990年頃、もちろん、優越感に浸りました。欧米人が指摘してくれた「日本の長所」によって日本が経済的にも、政治的にも、文化的にも素晴らしい国になった、と考えてしまいました。

現在、一人当たりのGDPアメリカに逆転されるだけでなく、大差をつけられ、文化面でも、日本がアメリカに勝っていると考える日本人はまずいません。しかし、そんな今でも、日本人の勤勉さのため日本が世界に誇る素晴らしい国である、と考える日本人、正確には考えたい日本人はいます。一人当たりGDPシンガポールや韓国に追い抜かれたといった国際的な視点だけでなく、国内的な視点でも、人口は減少して、経済は縮小して、借金は増え続けて、政治改革は実行できていないのですから、もはや誰の目にも日本の没落は明らかなのに、なぜ「日本は素晴らしい国だ」と考えるのでしょうか。あるいは、没落が明らかだからこそ、現実を直視したくないのでしょうか。もしそうなら、レイテ沖海戦後、もはや誰の目にも日本の劣勢は明らかになっているのに、日本の勝利を信じていた、信じたがっていた第二次大戦末期の日本人の心理に近いように思います。

平成の失われた30年の間に、知性の高い日本人は一時常識になっていた「日本人は勤勉だから経済成長できた」が間違いであることに気づいてきました。

確かに、日本人が欧米人より努力家で勉強家で勤勉だったことは事実で、それがゆえに他の先進国よりも経済成長できたことは一面の事実です。しかし、そうだとしたなら、その後も日本人は欧米人より勤勉だったので、日本は欧米との差をさらに広げて、今頃はGDPで世界一になっていなければなりませんが、現実に起きたのはその逆で、世界の中で日本のGDPの割合は下がる一方です。

欧米ほど、日本が改革を実行しなかったから、あるいはIT化しなかったから、日本は負けたのでしょうか。それも要因かもしれませんが、小国を含めれば欧米先進国でも改革を実行できていない国はありますし、日本以上にIT化が遅れている欧米先進国もあります。だとしたら、それ以外に原因があるはずだと考え、ついに、平成の終わり頃、人口動態が根本原因だと発見されました。

「発見」というと、それまで全く気づいていない表現で不適切かもしれませんが、バブル期の日本がアメリカに追いついた(追い抜いた)最大の要因が人口動態だと見抜いた人は、2010年くらいまでアメリカ人も含めて、いなかったのではないでしょうか。特に1990年頃は、全知識人がアメリカと日本の文化や習慣の違いに原因を見出そうとしていたように私は記憶しています(今でもその違いに注目している知識人もいます)。

日本の戦後の人口爆発は、他の欧米先進国より、極端な形で現れました。全ての西側先進国は戦後から30年ほど順調に経済成長していましたが、アメリカを含め、ほぼ全ての欧米先進国は1973年のオイルショック頃から停滞が始まります。しかし、日本だけは例外的に1990年頃のバブル期まで経済成長を遂げましたが、これは戦後のベビーブームが他の先進国より大きかったため、労働人口が増えていたことが一番の原因だったと、現在はほぼ結論が出ています。労働人口が増えれば、経済は成長します。経済が成長すれば、労働者は給与が上がり、意欲が出るので、勤勉になります。

全く同じ理論で、韓国が日本を追い抜いた理由も説明できます。韓国は日本以上に少子化が進んでいるとはいえ、朝鮮戦争があったせいで、下のグラフのような人口動態なので、労働人口の増加は続いており、労働人口率は先進国で最高にまでなりました。労働人口が増えれば、経済は成長します。経済が成長すれば、労働者は給与が上がり、意欲が出るので、勤勉になります。

一方、1990年以降、日本は労働人口が減ったので、経済は成長しませんでした。経済は成長しないのに、高齢者は増えて、十分に増税しなかったので、国の借金は増えました。労働者の給与は上がらないので、勤勉にもなれませんでした。

韓国が日本を追い抜いた事実はニュースにもならない」で、韓国が日本を追い抜いた理由は、「韓国人は日本人より勤勉で、努力家で、教養が高く、自由と平等の価値を尊重する」から、または「日本人ほど保守的でもなく、変化を柔軟に取り入れ、一度起こした変化を修正するスピードも日本とは段違い」だからと、私は書きました。

しかし、最大の理由は、そこではないでしょう。やはり、人口動態にあったと私は考えます。ある程度の政治社会の安定と教育制度の整備と経済規制が撤廃されていれば、後は単純に人口で経済成長、経済規模が決まってしまいます。そして、経済は文化と連動します。だから、今後、日本以上に韓国が激しい少子化のままなら、日本が韓国に再逆転する可能性は十分あるでしょう。

もっと言えば、それくらい少子高齢化は問題であることを日本人は認識すべきです。