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日本の少子化対策はなぜ失敗したのか

「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」(山田昌弘著、光文社新書)は素晴らしい本です。この本を読めば、他の少子化の本は読まなくていい、むしろ読まない方がいい、と言えるほど本質を突いています。日本の少子化対策として、保育所の確保だとか、女性が働きやすい環境だとか、夫の育児参加だとか書いている記事や本は未だにありますが、そんなのは読むだけ時間のムダだと理解できる本です。いいかげん、マスコミはそんな主張を止めるべきです。

このブログの他の記事でも書いていることですが、統計から、保育所の数も、女性の就業率も、夫の育児参加時間も、子どもの数と正の相関は全くありません。むしろ、それらは負の相関があります。つまり、保育所の数が増えれば増えるほど(昔の日本はもっと少なかった)、女性の就業率が上がれば上がるほど、夫の育児参加時間が増えれば増えるほど(実際日本でも最近増えましたが)、子どもの数は減ってきています。特に、女性の就業率の上昇と、子どもの数の減少は、日本に限らず、世界中どの国でも明らかに相関があります。

それにもかかわらず、なぜ少子化対策となると、保育所、女性の社会進出、夫の育児参加などと言われるのでしょうか。それは欧米の一部の国だと、その対策で少子化が軽減したからです。ただし、その対策で少子化が軽減したのは欧米でもスウェーデンやフランスなど、一部の国であり、ドイツやイタリアやカナダなど、その対策を打っても解決せず、移民で労働力不足を解消している国も多くあります。また、「未婚税と少子税と子ども補助金」で書いたように、そのスウェーデンやフランスでも少子化は解決したと言えず、せいぜい軽減したと言える程度で、両国が人口減少しなかったのは、やはり移民を労働者として受け入れたからです。

だから、欧米でも上記の対策はそれほど有効でなかった、と言えるのですが、それでも明治以来、日本は欧米先進国を見本にする習慣を捨てることができず、スウェーデンやフランス、あるいはオランダを「成功例」として、少子化対策をしてきました。

この「欧米中心主義思考」こそが、日本が少子化対策に失敗した根本原因だ、と上記の本で何度も主張されています。日本の少子化問題を解決するために、欧米は参考に全くならない、と著者は断定しています。むしろ、東洋の国、中国や韓国や台湾などは、日本と似たような少子化問題を抱えています。韓国も中国も台湾も少子化問題を全く解決できていませんが、とにかく日本の少子化問題と似ているとしたら、西洋ではなく、東洋の国になります。たとえば、少子化は先進国共通の課題とはいえ、西洋では結婚前の同棲が多く、婚外子が非常に多いのですが、東洋では結婚前の同棲は珍しく、婚外子が非常に少なくなります。だから、西洋だと「未婚化しているから少子化もしている」とは必ずしも言えないのですが、東洋だと「未婚化しているから少子化もしている」とほぼ断定できます。東洋の国の政治家や官僚も科学や統計を無視しているわけではないので、保育所問題にいくら予算をつけても、結婚が増えない限り、少子化は解決しないことくらい、さすがに気づいています。

著者の「欧米の少子化対策は日本にとって全く参考にならない」につけ加えるなら、欧米人の少子化対策の助言も全く参考にならない、と私は考えます。

以下は私の経験談になります。「女が貧乏な男と結婚していれば少子化など解決する」に書いた通り、少子化問題の背景(あるいは最大の原因)に、「女性が自分より収入の少ない男性と結婚しない」ことがあるのに、それが社会で全く問題視されておらず、議論もされていないことを、私は20年以上前から「この世の不思議の一つ」と考えていました。だから、私がカナダに留学した2009年時にも、「国際結婚統計の不都合な真実」を示しながら、「どうして女性が収入の低い男性と結婚しないことが問題視されず、議論もされないのか?」とカナダ人男女2名に聞きました。当時からカナダでも少子化問題が駅の公共広告で掲示されるほど深刻だったのですが、そのカナダ人の男女2名の反応はどちらも「言われてみれば、その通りだ。なぜ議論されないのだろう」でした。やはり、東洋ほどではないにしろ、「女性が自分より収入の少ない男性と結婚しない」傾向は西洋でもある、と2人は認めており、さらに「その重要な点がろくに問題視も、議論もされていないこと」を認めていたのです。

その理由の大きな一つは、上記の本に示されていました。「結婚は愛情ですべき」という価値観が東洋と比べると、西洋で強いからです。たとえば、下のような日本の統計があります。

女性の結婚相手に望む年収と、実際の結婚適齢期の未婚男性の収入があまりに解離している統計です。日本で少子化問題を語る上で、避けて通れない統計なのですが、著者がこの統計をイギリスで示すと、大学の男性教授から「こんな失礼な質問をしたのか。イギリス女性なら、結婚する時、相手の年収にこだわるのはいけない、と答えるだろう」と言われたそうです。どうも西洋人は、女性が男性を収入で結婚相手を選ぶ現実を直視する勇気がないようです。こんな西洋人に「少子化問題を解決したいなら、日本で根強い女性差別を止めるべきだ」などと上から目線で言われて、納得する日本人がいたら、ぜひ下のコメント欄に実名を書き込んでください。

ちなみに、中国で同じ統計を示したら、「中国の女性は男性の収入だけでなく、男性の親の資産も聞く」と言われたそうです。結婚する時に、男性の親が住宅を用意するのが、中国の中流家庭の習慣だからだそうです。中国が日本以上に少子化するのは当然です。

日本の男性はなんてかわいそうなんだと西洋男性に同情される」の記事で、日本の少子化問題を考える上で、西洋は全く参考にならないことをさらに示します。