18世紀末に始まった産業革命は有史以来最高の急激な変化を世界中にもたらしています。いち早く産業革命を達成した一部の国家群は20世紀まで、良くも悪くも世界全体を動かしていました。ついに21世紀には先進国だけでなく、世界中のほぼ全ての国に産業革命の恩恵がいきわたります。地球規模で見れば、21世紀が世界史上最高に変化に富んだ時代になることは間違いありません。必然的に、その弊害も地球規模になるので、環境問題は過去最高に重要になってきます。
以上のことは、教養のある人なら、みんな知っていることです。一方で、地球規模の劇的な変化から取り残されている国もいくつかあります。既に産業革命の恩恵を十分に受けてきた先進国です。中でも停滞が目立つ国は日本です。もうすぐ30周年を迎える「失われた20年」継続中の日本は、驚くほどに変化の乏しい国になっています。これも教養のある日本人なら常識にしておいてほしいのですが、「激動の時代の今」「変化のスピードがますます速くなる時代」などという文言を日本でうっかり使ってしまう「知識人」は後を絶ちません。
変化のスピードが最も速い時代は、産業革命導入期です。日本なら明治維新期です。政治面、文化面、経済面、その他のあらゆる側面を考慮しても、明治維新期は、日本史上最大の劇的な変化が起きた時代です。それ以降もGHQの改革期までは激動期が続きますが、高度経済成長期になれば、政治は変化の乏しい時代になります。日本が全ての面において決定的な停滞期に入ったのはバブル崩壊後であるのは周知の通りです。
産業革命による急速な経済発展が限界に近づいてきたのは、理論的にも現実にも、先頭集団からです。アメリカでは1960年代、ヨーロッパでも1973年のオイルショック後には停滞期に入っていました。しかし、幸か不幸か、日本はオイルショック後でも、就業人口の大幅な増加は続いており、バブル期まで経済を発展させていましたが、そこが限界でした。
とはいえ、急速な経済発展が終わったものの、そこで経済成長が完全に止まったわけではありません。日本の失われた20年間中も、家電や車のエコ化は進みましたし、PCや携帯電話は普及しました。しかし、その程度です。私の父母の世代から、子どもの頃はテレビも冷蔵庫も洗濯機もなかった、という話を聞くと、自分の生きる時代がいかに停滞しているかは嫌でも感じます。現代の少年少女世代になれば、子どもの頃からの最大の変化といえば、ガラケーがスマホになった程度ではないでしょうか。これを急激な変化といえば、誰だって笑うでしょう。
現在、日本を含む先進国の人が「変化が加速する時代」「テクノロジーは日進月歩で進化している」などという言葉を安易に使っていたとしたら、歴史の流れが分かっていない視野の狭い人だと考えて間違いないでしょう。19世紀の科学革新の時代と比べると科学の進歩は明らかに遅くなっていますし、20世紀の先進国での工業革命の時代と比べると工業化の進展も著しく遅くなっています。さらに書けば、変化のスピードが落ちている先進国にすら、日本は着いていけていません。退職後の人ならまだしも、現役世代にいるのに、停滞する時代の変化にすらついていけないほど頭の中が停滞している人は、産業革命の恩恵を受けるに本来値しないので、山の中で自給自足の生活でもしていてほしいです。