前回までの記事の続きです。
「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」(山田昌弘著、光文社新書)によると、日本の少子化対策は、欧米の少子化対策を見習ったため、失敗しました。欧米で広まった「仕事による自己実現」という考え方は、日本では少数の女性に影響を与えたに過ぎませんでした。
政治家、官僚、企業幹部、マスコミ、そして研究者の周りにいる若年女性の大多数は、大卒、大都市在住、大企業正社員か公務員のようです。中には成功したフリーランス、起業家もいるでしょう。しかし、大卒の女性など、最近ようやく5割を超えた程度で、2001年だと若年女性の32.2%、3分の1に過ぎません。日本の若年女性の多数派は、大卒でなく、大都市在住でもない、非正規雇用者です。少し考えてみれば分かりますが、非正規雇用の女性が仕事の自己実現(やりがい)で悩むことはまずありません。
上記の本ではこうも書いています。
「これは女性活躍推進政策にも言えると思う。高学歴で大都市の大企業に勤める女性がトップリーダーになれる環境を整えることは重要である。ただ、地方で中小企業にパートで務める非大卒の女性にとっては、『雲の上の話』に聞こえてしまう。地方にいる非キャリア女性の活躍によって、地方経済の活性化、ひいては、日本経済全体の底上げをすることが、本当の意味での女性の活躍推進なのではないかと痛感している」
私も同感です。具体的な対策として、「介護職の多くを公務員化すべきである」は既に提示しています。
西洋だと「女性が仕事によって自己実現する」という理想が重視されますが、東洋だと、そんな理想を考える女性は稀でしょう。当たり前ですが、コンビニのアルバイトをしている未婚女性が仕事で自己実現していると考えることはありません。まして、手取りで月20万円にもならないレジ打ち・品出しの仕事を辞めたくないから子どもを持たないなど、考えるわけがありません。
上記の本の著者は、毎年大学生たちに「結婚、出産後も働き続けたいか」(同時に、配偶者にどうして欲しいか)を聞いているそうです。1986年、女子学生の回答は「働き続けたい」が圧倒的に多かったそうです。当時、女子の四年制大学進学率は低く、かつ、教員志望者が多い東京学芸大学での調査だったことも影響しているでしょう。ただし、年を追うごとに、学芸大でも「仕事を辞めたい」が増え始め、2008年に中央大学に移籍した以降も同様で、近年は「働き続けたい」と「仕事を辞めたい」が、ほぼ半々になっているそうです。
一方、男子学生は、妻に働き続けてもらいたいという回答が年を追うごとに増えていって、最近は、「仕事を辞めて専業主夫になりたい」という回答が混じるようになりました(「『女性が活躍できる社会』ではなく『女性が活躍しなければならない社会』になっていないか」に書いた私と同じです)。
なぜこんなに調査結果が変わってきたのでしょうか。欧米と異なり、日本はやりがいのある(自己実現できる)仕事があまりない、と大学生も年を追うごとに気づいてきたからだ、と筆者は推測しています。社会学者の中野円佳によるインタビュー調査によると、結婚出産で仕事を辞めたキャリア女性は両立できなくて辞めたというよりも、両立してまで続けるほどの仕事とは思えなかった点が強調されています。キャリア女性、上記の大卒で大企業や公務員勤務の女性の調査ですら、そうなのです。多数派の非キャリア女性なら、なおさらそうでしょう。上記の本の著者の女子大学生アンケートでも、「その時に就いている仕事が面白かったら働き続ける、つまらなかったら辞める」というものが出てきているそうです。
仕事が女性のやりがいになるためには、やりがいのある仕事を日本で増やさなければなりません。その前提が崩れているなら、仕事と子育ての両立支援が少子化対策に有効なはずがありません。
次の記事で、欧米の少子化対策が日本で無効であった理由をさらに考察します。