ウーマンリブの時代まで、女性差別撤廃運動の男性側の反動は大したことなかったはずです。しかし、21世紀以降のフェミニズムの時代になれば、「バックラッシュ」「ミソジニー」という専門用語が誕生してしまうほど、反動は大きくなりました。「『キム・ジヨン』のバックラッシュの妥当性」に示したように、多くのフェミニストたちはこの反動を知ってはいても、「フェミニズムは正義」という固定観念から抜け出せていません。あるいは、そんな固定観念を自覚せずに正義面して男性を加害者扱いするからこそ、恵まれない男性たちは怒りがおさまらないのでしょう。
現代社会で生活していたら、女性差別を改善することが「正義」だという考えは小さい頃から身に着けています。しかし、実際に男性として生まれてみれば、女性の方が恵まれている場面に嫌でも出くわします。
「男子問題の時代」に書いたように、男子は女子に比べて、特殊学級で学ぶ割合が高く、学習障害と診断される割合が高く、留年率が高く、自殺率が高く、虐待の被害者となる割合が高く、刑務所に収容される率が高く、学校生活を楽しむ度合いが低く、学校生活で失敗しやすい態度を持ちやすいです。また、一部のエリート学校を除き、日本だと女子の平均点が男子の平均点より高かったりします。韓国では、女子の大学進学率が男子の大学進学率より既に高くなっており、公務員の就職では男性側にアファーマティブアクション(男女どちらかの性の就職率が3割未満にならないような調節)が行われるほど、女性が多くなっています。
大人になっても、勇気を出して男性から声をかけないといけませんが、9割以上の男性は、失敗回数が成功回数を遥かに上回ります。とりわけ、長年心から好きな女性に断られた時は、自殺を考えてしまうほどショックなことは、女性だって分かるでしょう。男性側がおごるべきとの観念を強く持っている女性もいますが、それが社会道徳に反すると声高に批判する人はあまりいません。お互い学生同士なのに、最初のデートで割り勘にした途端、次のデートの約束がとれなくなって、「男におごってもらう目的で会っていたのか」と落胆した経験が、私は何回あるでしょうか。
レディファーストが日本以上に普及している韓国なら、もっとひどいです。韓国では、男女が一緒に歩く時、男性が車の走る側にいることが徹底されています。100日記念日と言って、つきあって100日目に100本のバラを男性が女性に必ずプレゼントしなければなりません。日本以上に保守的な側面もあるせいか、女性にとって都合のいい「女性差別」が残っており、男性がおごるべきとの観念は日本以上に強いです。私がカナダに留学していた2010年頃、ある20代の韓国人男性が「女性に貢いだ金は1万ドル以上だ」と言って、当時、どう高く見積もっても、その半額以下しか女性に貢いでいなかった私は驚いたことがあります。
また女性差別、とりわけ男女の賃金格差がなくならない最大の理由は結婚にあります。女性は就職できなくても結婚という選択肢がありますが、男性は就職できなければ結婚も当然できません。「女が貧乏な男と結婚していれば少子化など解決する」に書いたように、女性がこれほど働くようになったのに、大多数の女性は自分より年収の低い男性との結婚を忌避します。この男性差別をなくさないのに、男女の賃金格差をなくしたら、あまりに男性に不利でしょう。「日本で女性があまり社会進出していない最大の理由」に書いたように、日本だと結婚後に、女性が家計を握ってしまうことも、男女の賃金格差がなくならない大きな原因です。どんなフェミニストであろうと、結婚の問題に全く触れていないのなら、偽善でしかないことは、自分でも分かるはずです。
「韓国社会の現在」(春木育美著、中公新書)によると、他の国と同様、韓国でも政治は進歩と保守で国民が二分されています。一般に韓国では、若者ほど進歩的で、高齢者ほど保守的です。一方、フェミニズムに関しては、20代男性の50.5%が否定的な認識を持っており、30代男性だと38.7%、40代男性だと18.4%、50代男性だと9.5%と、若い世代ほどフェミニズムに反感を持っています。
このデータから若者の韓国人ほど進歩的なはずなのに、フェミニズムについては若者男性ほど保守的と多くのフェミニストは考えているようです。しかし、実際はフェミニストについても、若者男性ほど「女性優遇は正義」という保守的な観念から脱却した進歩的な思考を身につけているのではないでしょうか。おそらく「女性は家庭」という固定観念については、若者男性ほど低いはずです。それにもかかわらず、なぜフェミニズムに反対するのか、その本質的な理由に多くのフェミニスト学者は気づいているのでしょうか。