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高齢者天国日本が見えない新聞記事

今朝の朝日新聞の記事です。

 

「年金が減ったうえに、医療費の負担が増え、これからは病院に行きたくても我慢するしかありません」

横浜市に住む斎藤キヨ子さん(78)は今月14日に届いた新しい保険証を手にため息をつく。「一部負担金の割合」の欄には「2割」の文字。10月から82歳の夫とともに医療費の窓口負担が1割から2割に倍増する。

あらかじめ自分で所得などを計算し、「ぎりぎり対象になるかも」と覚悟していたが、厳しい負担増が現実のものになった。今回の負担増には軽減措置があるというが、それもずっと続くわけではない。

斎藤さんはひざ関節症の治療や十数年前に患った大腸がんの経過観察などのために整形外科、外科、婦人科、歯科に通院している。それぞれ2、3カ月に1回の頻度だが、多いときは月5回になることもある。昨年肩の手術をした夫も複数の医療機関にかかる。夫婦が窓口で支払っている医療費は月々1万2千円ほど。倍増となれば約2万4千円になる。通院する交通費も、2人で年4万3千円程度が必要だ。

一方、頼みの年金は先細る。今年度は昨年度より年約3600円減り、夫も約9800円減った。加えて物価高で食費や電気代も上昇。夫婦で年間約16万円の介護保険料も重くのしかかる。

夫婦2人の年金収入は約330万円。斎藤さんは25歳で結婚するまで、夫も10代から60代半ばまで会社員として勤めた。夫はさらに材木店で6、7年働き、老後に備えてきたはずだった。だが、いまは将来の生活への不安ばかりが募る。

今は同居する娘に食費を支援してもらいながら生活を送る。「国は『自助・共助・公助』と言いますが、年金は減り、物価も高騰し、生活は決して楽ではありません。暮らしを見て施策をつくってほしい」

 

こんな記事を数百万部も刷る新聞に載せてしまうほど、この時代の一流新聞記者は現場を分かっていない証拠として、残しておきます。

私は医療者なので、医学的な見地からまず批判します。

「ひざ関節症の治療や十数年前に患った大腸がんの経過観察などのために整形外科、外科、婦人科、歯科に通院している」

ひざ関節症の治療に、数ヶ月に1回診察する必要はなく、実際、毎回レントゲン検査などしていないはずで、痛み止めの処方をもらうことが目的でしょう。大腸がんの経過観察など、もっと不要です。78才で再発なら、手術適応になる確率は低いですし、ましてそのために数ヶ月に一度の検査など不要です。どちらも症状の変化が出たら、受診するくらいで十分です。そもそも整形外科と外科と婦人科の定期通院は一つにまとめるべきです。家庭医制度のある西洋先進国では、日本のように整形外科や外科や婦人科のクリニックがどこの町にもあることなどなく、全て家庭医が診ています。大した症状もなく、特別な機器での検査もせずに、今までの薬を微調整するくらいですから、家庭医で十分です。日本にも家庭医を名乗る開業医はいるので、信頼できる家庭医を見つけて、無駄な薬を整理すれば、月々の医療費など3割負担でも夫婦で月6千円いかないでしょう。

「通院する交通費も、2人で年4万3千円程度が必要だ」も、わざわざ書くほどのことですか。月々になおすと1人1800円ですよ。1年の収入150万~180万の学生が、彼女や彼氏に逢うために使う毎月の交通費なんて、この数倍はかかりますよ。

しかも、「同居する娘」がいて、その娘に「食費を支援してもらいながら生活を送る」くせに、「夫婦で年間約16万円の介護保険料」も利用している上、「生活は決して楽ではありません。暮らしを見て施策をつくってほしい」と被害者面しているのも、本当に腹立たしいです。

上記の金額から推測すれば、介護保険料自己負担は妻が1割、夫が2割でしょう。つまり、介護保険料を80万円~160万円も費やしているのに、自己負担は16万円で済んでいるのです。世界史上、この上なく恵まれた高齢者たちです。

日本の大学生の学費は私立なら確実に100万円は越えますが、自己負担率を1割や3割にしてくれる制度など、ほぼありません。私同様、親元を離れて学生生活を送っていたら、生活費は学費以上にかかります。学業だけでなく、アルバイトもしているのに、大学生の収入は、全く働かず、人の世話ばかり受けている、この75才以上の高齢夫婦の一人分と同じくらいです。

だいたい、世界一の高齢者預金天国の日本として有名なのに、この夫婦の預金額が書かれていないのも不公平です。夫が定年まで働いて、さらに6,7年も働いていたなら、生涯賃金は相当な額になっています。逆にいえば、それくらい稼いでいるのに、既に預金がなくなっていたなら、家などに浪費したか、よく中身も確認しなかった保険で1千万以上損したかなどであり、どちらにしろ自業自得です。

今の日本で、高齢者の医療費2割負担が大変だと本気で考える人は、私には理解不可能です。高齢者の医療費は3割負担でも足りず、海外では当たり前の高齢者の透析治療のように、場合によっては全額負担にするべきだ(しなければならない)と私は考えています。常識で考えても、現場を知っても、国際比較しても、若者と比べて、高齢者が遥かに恵まれていることに今の日本で気づかないとしたら、狂人レベルまで到達しているでしょう。間違っても、一流新聞記者にすべきではありません。

高齢者医療費無料化は日本の医療行政史上で最悪の政策だったとは、衆目の一致する所です。この最悪の政策は、戦後の左翼勢力によって実現したと聞いたことがあります。いずれ記事にしたいですが、今も日本は昭和の亡霊に憑りつかれていますが、高齢者医療の問題もそうかもしれません。