精神科最大かつ日本最大の依存薬物であるベンゾジアゼピン系の害について述べたので、睡眠についても述べておきます。
抗不安薬(マイナートランキライザー)は全てベンゾジアゼピン系薬ですが、睡眠薬はベンゾジアゼピン系薬以外も出ており、現在はオレキシン受容体拮抗薬が主流になっています。もっとも、いまだに睡眠薬の種類としてはベンゾジアゼピン系薬が豊富です。エビデンスとしては睡眠効果に差がないはずなのに、患者さんの主観だとオレキシン受容体拮抗薬よりベンゾジアゼピン系薬は圧倒的に睡眠効果があるようで、なかなかベンゾジアゼピン系睡眠薬を止めてくれない患者さんは日本中にいます。
睡眠についてはいまだ誤解が多いので、厚労省が2014年に発表した「睡眠12箇条」の重要箇所を下に書いておきます。当たり前のことですが、生活習慣病は生活習慣を治すのが第一なので、まず下記の事実を伝えるべきなのですが、それを全くせずに「眠れません」の一言で睡眠薬を処方するヤブ医者が多すぎます。
1,適切な睡眠時間は人それぞれ。
ナポレオンのように3時間が適切な睡眠時間の人もいます。「8時間睡眠が理想」は科学的根拠がなかったと結論が出ています。7時間睡眠の人が最も死亡リスクが低かったエビデンスはありますが、睡眠薬を使ってまで7時間睡眠すべきという意味ではありません。
2,高齢になるほど睡眠時間は短くなる
3,昼寝と2度寝は睡眠の質を落とす
4,アルコールは寝入りやすくなるが、中途覚醒を増やし、悪夢を増やし、睡眠の質を落とすので、まず止めるべき
5,横になって10分して寝ていなかったら起き上がる
6,横になったままテレビを観たり、スマホをいじったり、本を読んだりしない
7,起きる時間は一定にすべきだが、寝る時間にはこだわらない
一番実行されていないのは「5」だと思います。ほとんどの病院は9時に強制消灯になるので、入院中は「5」をまず実行できません。入院中に睡眠障害を高確率で起こす生活リズムを強要していることは、入院中にADL(日常生活動作)を下げる要因でしょう。
「睡眠12箇条」には書いていませんが、食事も睡眠に強い影響を与えるはずです。たとえば、食事制限をするボクサーは激しい運動をしても、1時間しか眠れなかったりする、と昔から知られています。決まった時間に決まった量の食事をすることは睡眠にとって重要なはずです。
また、「睡眠12箇条」と同等に重要な事実は「睡眠不足は大した問題ではない」ことです。「眠れないことだけが問題」と言って、精神科にかかる高齢患者さんは私も担当していますが、そんな恵まれた人に公的医療保険を使うことはもったいないと思います。
1週間に3日以上、3ヶ月以上続き、起きている時間に問題が生じていない限り、睡眠障害と診断されません。高齢者になれば、起きている時間に大きな問題が生じる可能性は低いので、睡眠薬を使う必要はまずありません。むしろ、高齢者に睡眠薬を出したせいで、転倒や交通事故を起こす問題こそ、心配するべきです。