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USスチール投資は失敗する

アホーーー!!!!!!!

新聞を読んで、叫んでしまいました。

今朝の新聞一面にUSスチール買収案が投資案に代わって、トランプ大統領により実質的に認められた、と誇らしく書かれていました。

前大統領のバイデンが却下してくれて、トランプも「即座に阻止する。絶対に」と明言してくれていたのに、ストーカー男の求愛のごとく、日本がアメリカに平身低頭して、日本が莫大に損する取引を勝ち取ってしまいました。

東芝が6000億円でウェスティングハウスを買収したものの、なんら利益を生まず、むしろ千億円単位の損失を出しつづけて、再度、赤字で売却しなければならなかったことを思い出します。アメリカが日本市場に食いこもうとTPPを提案したが、日本がTPPを骨抜きにしたので、最終的にアメリカからTPPを拒否したことも思い出します。

TPPは全産業に及ぶ問題で、単純化はできません。ただし、本質的には上記のような流れであると私は推測しています。

一つの代表例として、TPPの健康保険問題をあげます。

アメリカは毎度のように「大多数の日本人の利益になる」「医療産業規模が拡大する」「ドラックラグがなくなる」「日本での新薬開発が飛躍的に進む」などのメリットだけを述べて、世界最高の日本の国民皆保険規制緩和を求めてきました。なお、これらのメリットは全て事実ですが、それを上回るデメリットあることに日本の厚労省は気づいていました。

アメリカが要求したように、民間保険に入っていれば、国民皆保険(公的保険)に入らないで済む制度になれば、どうなるでしょうか。全ての保険は、問題が生じない大多数の人にとっては損です。大多数の問題のない幸運な人が掛け金を払って、少数の問題が生じた不幸な人を金銭的に救う制度だからです。だから、大多数の健康な日本人は公的保険をやめて、(アメリカの)民間保険に入った方が金銭的に得になります。そうなると、公的保険の掛け金を払う人が激減して、不健康な人や掛け金を払えない人だけが残ってしまいます。もちろん、こんな保険は成り立ちません。いまでも公的保険は税金で補填されていますが、さらに大量の税金が補填されるようになります。今でも保険適用されない新薬はありますが、さらに増えるでしょうし、それどころか、これまで保険適用されていた治療も削減されるでしょう。そこも税金で補填すれば同じことだ、と考える人もいるかもしれませんが、絶対に同じにはなりません。今まで国民が負担していた医療費の一部がアメリカの保険会社役員の莫大な給与に流れるからです。

以上の理由から、日本の厚労省国民皆保険規制緩和を絶対に認めませんでした。確かに、アメリカのように自由診療を認めたら、医学は確かに進歩するでしょうが、「アメリカの医療は先進国最悪である」に書いたように、医学の進歩によって医療費が増大し、医療アクセスが後退することで、国民の健康が返って悪化することもありうるのです。「医学の進歩≠国民医療の向上」は全国民が知っておくべきことだと思います。

TPPの問題に戻ります。国民皆保険は一例ですが、このようにTPPの交渉で、明らかに日本のデメリットになる規制は譲らなかったので、最終的にアメリカも諦めて、そっぽを向いてしまいました。

最初はアメリカがヤル気満々だったのに、途中からアメリカが拒否するようになった点で、USスチールはTPPと似ています。ただし、決定的な違いもあります。USスチールはやっぱりアメリカが許可した点です。

私は鉄鋼業界についてズブの素人です。2兆円の買収額、追加で4千億円の投資にUSスチールが見合うかどうかも分かりません。それでも失敗すると確信するのは、USスチールが蘇る可能性が少しでもあるなら、とっくの昔に、日本よりも遥かに有能で強引な経営者の多いアメリカ人たちが蘇らせているからです。

特にひどいと思うのは、日鉄が「USスチールの雇用は守る」と約束している点です。こんな条件で再建できるわけがありません。断定します。漠然とした理念を語りたくはありませんが、組織は人でほとんど決まります。日本でもそうでしょうが、鉄鋼産業なんて、時代遅れな習慣に固執して、プライドだけは高い役員や社員がゴロゴロいます。東芝が手を焼いたウェスティングハウスと同じか、それ以上のはずです。世界中の天才がどれだけ集まっても、USスチールは大規模人員整理をしない限り、黒字化できるわけがありません。

こんな当たり前のことに、日鉄のバカ経営陣はともかく、石破首相、政府首脳、日本の大手マスコミはなぜ気づかないのでしょうか。私には本当に謎です。