未来社会の道しるべ

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高齢者が増えたからといって医療費が増えるとは限らない

高齢者が増えると、医療費が増えると多くの人は考えています。長年、私もこれを疑ったことがありませんでした。しかし、それは必ずしも正しくないはずです。高齢まで生きようが、生きまいが、人間は必ず死に、死ぬ前には病気になります。高齢者には申し訳ありませんが、社会全体で考えれば、若い人の死を救う価値はありますが、高齢者の病を救う価値はあまりありません。高齢者はたとえ一時的に死を救えたとしても、そう遠くないうちに死に至るからです。だとしたら、高齢者が増えたのなら、死や死に至る病を救う労力は減るはずなので、社会の医療費総額はむしろ安くなってもいいはずです。

アメリカの医療は先進国最悪である」でも書きましたが、アメリカの医療費の高さに最も影響を与えているのは、高齢者の増加でなく医療技術の進歩です。この傾向は「高齢者の増加=医療費の増加」と当然のように考えている人には注目に値するはずです。

なぜ歯科の保険診療総額は増えないのか」でも書いた通り、高齢化が進んでも、歯科の保険診療総額は大して増えていません。予防医療の成果で、歯の病気が減ったからです。もちろん、高齢化が進めば、最終的に歯を失う人は増えるでしょうが、だからといって、みんながインプラントにしたりするわけではありません(もっとも、インプラント保険診療ではありませんが)。医療全体であっても、予防医療を充実させていけば、医療費を抑制することは可能なはずですし、そうすべきです。

健康への欲求は無限である」にも書いた通り、病院を増やしたり、医者を増やしたりすれば、皆保険制度では、ほぼ自動的に医療費は増大します。だから、歯科の例にもあるように、インプラント保険診療からはずすなど、予防をしなかった責任費用は自己負担にさせるべきです。なお、医療費無料のはずのカナダでは、歯科と眼科は自費診療です。

なお、高齢者が増えても医療費を削減することは可能だと思いますが、介護費用(福祉費用)を削減するのは難しいでしょう。バブル期までベッド数を必要以上に増やしてしまった日本では、医療が介護を担っていた側面があります。2000年までゼロだった介護保険費用が10兆円に到達したのですから、実質的に介護費用も含まれていた医療費を10兆円は無理でも、数兆円減らすことは可能なはずです。そのために、厚労省が何度も挑戦しては延期を繰り返している「療養病床の消滅」は必要でしょう。