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六者協議は無意味であった

「二つのコリア」第三版(ドン・オーバードーファー、ロバート・カーリン著、共同通信社)は朝鮮問題、特に北朝鮮問題を考える上で、必読書でしょう。ここまで本質を突いた本は、日本人の著作では存在しないように思います。いまだに六者協議を開催すべきである、北朝鮮の核問題を解決するためには日本を協議に加えるべきである、と考えている人は、特に読むべきです。その考えが完全な間違いであると理解できるでしょう。この本は、六者協議は北朝鮮の核問題の解決には全く意味がなかった、むしろ悪化させた事実を客観的に示しています。

北朝鮮が核開発をやめようとしていた時期があったことを、どれくらいの日本人が知っているでしょうか。1994年に第二次朝鮮戦争勃発寸前までいった後(これがどれくらい切羽詰まった状態にあったかを未だに知らない日本人も多いと思いますが)、少なくとも2000年まで、北朝鮮は核開発を進められない状況にあり、IAEAの査察も受け入れていました。アメリカと友好関係を築きたい、としか思えない外交を金正日が進めていた時期でもありました。それらの北朝鮮非核化外交が、ブッシュ政権によって完全に失敗したことは、北朝鮮問題の基本中の基本知識です。

ここから、他の外交問題も加えたテーマになります。日本の外交は基本的な情報を共有していないのでしょうか。「日本外交のトラウマ 」で私は藪中三十二アフガニスタン外交でのアメリカへの反論を絶賛しましたが、「国家の命運」(藪中三十二著、新潮新書)に記されている藪中の北朝鮮外交は、もはや外交の体をなしていないほどひどいです。拉致問題を異常に重要視しており、北朝鮮はもちろん、他の全ての国から呆れられています。拉致事件は、韓国で日本の何十倍も発生していますが、韓国は拉致事件など六者協議で持ち出していません。それよりも核問題が比較にならないほど重要であることは論をまたないからです。六者協議の経緯の基本情報を共有していたら、あるいは、既に発売されている「二つのコリア」の第一版を読んでいれば、それは明らかです。日本のエリート中のエリートであるはずの外交官が、なぜこんな初歩的なミスをするのか疑問でなりません。

日本は今も不平等条約を結んでいる」という記事で、首相を含めた日本の外交官が日本の密約を熟知しておらず、何度もトンチンカンな対応をしてしまった事実を示しました。しかし、当たり前ですが、「知ってはいけない」(矢部宏治著、講談社現代新書)が2年前に出版されたので、今の外交官は、それらの事実を知っているはずです。特定の公人だけが閲覧できる秘密文書ではなく、一般の書店で購入できる本に書いてあるのですから、秘密でもなんでもありません。しかし、上記の本出版後も、日本の外交には、なんの変化もありません。このおかしな日本と米軍関係を変えようと声高に主張する外交官は政治家も含めて、一人も現れていません。

アメリカは不平等条約の締結を目的としていなかった」に書いた通り、幕末にペリーが日本へ来た目的は不平等条約を結ぶことではありませんでした。日本の外交官の無知によって不平等条約を結んでしまったミスを、現在の日本の外交官がどれくらい知っているか調べてほしい、とも幕末外交の一連の記事で私は主張しました。もちろん、外交官は歴史家ではないので、150年も前に結んだ条約、とっくの昔に効力が切れた条約について、調査研究する責務はありません。しかし、日本の歴史を変えるほどの重要な条約の基本知識は最低限、持つべきです。

まして、北朝鮮の外交をまさに担っていた者(藪中)が市販されている「二つのコリア」を一読していたら、まず思いつかないようなメチャクチャな見解を自著に残している事実は、不思議としか言いようがありません。日本の外交官は、一般書籍の基本情報すら把握していないほど、無能なのでしょうか。あるいは、知っていてもそれまでの外交方針を変えようとしないほど、意欲がないのでしょうか。

日本にも外交研究者は100名以上いるはずなので、日本の外交官たちの外交知識と意欲について、誰か本当に調べるできでしょう。