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なぜ大躍進政策より文化大革命の評判が悪いのか

中国共産党の歴史」(高橋伸夫著、慶應義塾大学出版会)は興味深い本でした。

ほとんどの歴史書で統計的に短く扱われている大躍進政策について、最新の研究結果を含めて、詳しく書いています。地域によって、餓死者数はかなりの差があるようです。

この大躍進政策の失敗での餓死者は中国だけにしか存在しませんが、世界中を巻き込んだ世界史上最悪の第二次世界戦争の戦死者数と匹敵します。人の命が平等であるなら、第二次世界大戦と同じほどの時間と労力をかけて大躍進政策について研究すべきなのですが、そうなっていません。中国以外の国が研究することはないでしょうし、共産党政権が続く限り中国が研究することもなく、万一あったとしても、もう60年以上前のことなので、今後、謎が十分に解明されることはないでしょう。これは人類史の汚点、歴史学の汚点として、未来永劫に残ります。

私にとって大きな謎なのは、生き残った中国人自身も文化大革命の批判はしても、大躍進政策の批判はあまりしていないことです。文化大革命の死者も多いとはいえ、さすがに大躍進政策の膨大な餓死者数にはかないません。この理由については、以下のことが考えられるでしょう。

1,大躍進政策は肉体的な消耗だったが、文化大革命は精神的な消耗であった。人は肉体的な消耗よりも、精神的な消耗の方が辛い。

2,文化大革命大躍進政策の後に起こった。新しい嫌な記憶(文化大革命)が古い嫌な記憶(大躍進政策)に上書きされたから。

3,大躍進政策で大きな被害を受けた地域はほぼ誰もいなくなって、生き残りがゼロかそれに近く、その悲惨さが語り継がれなかったから

ただし、これら以上に大きな理由は「餓死(栄養失調死)がそれほど苦しい死に方でないからだ」と私は推測します。

ピンピンコロリは理想でない」で書いたように、私は最も苦しくない理想の死に方を老衰、つまり栄養失調死(餓死)だと考えています。

大躍進政策の失敗のため餓死で亡くなった人たちも「衰弱して抵抗もできずに動物に食われた」という例外でもなければ、それほど苦しくない最期を迎えていたのではないでしょうか。

中国人にとっても大躍進政策より文化大革命の評判が悪い事実から、老衰が好ましい死に方であることも導けるように思います。