今朝の朝日新聞の記事の抜粋です。
USスチールは1901年、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーらによって創設された。粗鋼生産量が国内の3分の2を占めた時期もある。社名に「US」を冠し、米国を代表することが運命づけられた企業だった。
時代を画した建造物に鉄鋼を供給し、国の工業化を牽引(けんいん)。良質な雇用も生み出し、50~60年代の米国の黄金時代を支えた。「アイコニック・カンパニー」(象徴企業)と呼ばれるゆえんだ。
過去の栄光の記憶を選挙スローガン「MAGA」(米国を再び偉大に)に重ね、人々の郷愁に訴えかけたのがトランプだった。「世界で最も偉大な企業の一つだったUSスチールが、日本に売られようとしている」
ペンシルベニア州で今春開いた選挙集会で、トランプは買収の「絶対阻止」を表明しつつ、ラストベルト(さびついた工業地帯)に住む聴衆のプライドをくすぐった。「この州は、何世代にもわたってタフで強い鉱山・工場・鉄鋼労働者たちが、歴史上最も偉大な国家を築いた場所だ。しかし衰退の一途をたどっている。この恐怖が続くことは許さない」
外資によるUSスチール買収の「阻止」を、同州が繁栄を取り戻すことに重ねるかのような口ぶりだった。
対するバイデンがピッツバーグに乗り込んだのはその4日後だった。「USスチールは1世紀以上にわたって米国を象徴する企業だった」。やはり過去の栄光を引き、全米鉄鋼労働組合(USW)の組合員に訴えた。
「米国で所有され、米国で運営され、米国の組合鉄鋼労働者が働く米企業であり続けるべきだ」
3代にわたる同州の労働者で、USスチールで約30年働くロバート・ハチソン(53)は演説にうなずいた。「鉄は私の人生そのもの。誰もが国内企業であり続けてほしいと思っている」
「誇り」にかこつけて、買収に反対してきたトランプとバイデン。本音はともに、USWや労働者らの支持取り付けにある。この州が大統領選の行方を左右する最大の接戦州であるためだ。
とはいえ、彼らの主張は実のところ苦しい。かつて世界首位だったUSスチールの粗鋼生産は24位まで後退。買収のきっかけも同社が「身売り」を宣言したからだった。日鉄の投資抜きでどう再建するのか大統領選では誰も語ろうとしない。
「USスチール、という名前じゃなかったら、こうはならなかっただろう」。地元アレゲニー郡の共和党委員長サム・デマルコは嘆く。日鉄の森らとも面会し、日鉄がUSスチールの雇用を守り、州内の古くなった工場に投資する方針を確認したという。「この取引はUSスチールの将来にとって最善だ」
工場の立地自治体からも、党派関係なく買収を支持する声が出る。USスチール首脳は、買収が破談した場合、製鉄所の閉鎖や雇用の削減、本社の移転などを検討せざるを得ないとしている。
バイデンの後を継いで民主党の大統領候補となった副大統領のハリスは、テレビのインタビューでこうした点をただされた。だが、「米国人労働者による米国内での生産を維持することが最も重要だ」という原則論を述べるだけだった。
大統領選でどちらが勝ったとしても、経済合理性を超えた「米国第一主義」がはびこる大国と、世界は向き合うことになりそうだ。
ハリスとトランプがひっきりなしに訪れる州が三つある。東部ペンシルベニア、中西部ミシガン、同ウィスコンシン。11月の大統領選の結果は、この3州の勝敗に大きく左右されるからだ。
2012年に3州を制覇したオバマ(民主)が再選を決め、16年は3州をおさえたトランプが初当選した。20年に3州を奪還したバイデンは、トランプの再選を阻んだ。
一部の州での勝敗が段違いに重みを持つのは、米国独特の選挙制度ゆえだ。
大統領選は、人口に応じて各州に割り振られた「選挙人」を多くとった方が勝つ。大半の州では、1票でも多く取った方がその州に割り当てられた選挙人を総取りする。全米50州のうちほとんどの州で民主、共和の勝敗があらかじめほぼ見えており、残りの一握りの接戦州の行方が、全体を左右する構図になっている。
なかでも、この3州では近年、民主と共和の候補者が激しく競る。
3州は鉄鋼や自動車などの製造業が栄えた工業州だ。産業の衰退で雇用が大きく失われ、一帯は「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる。それだけに、失われた製造業の復興や、労働者の保護など、一帯で重視される課題がとりわけクローズアップされる現象が起きる。
3州の人口は選挙人ベースで全米の8%を占めるに過ぎない。だが候補者たちは3州の有権者に響く政策を競い、地域の不利益につながるような問題には持論も封印する。
このブログを読むような人なら、今更伝えるまでもない情報かもしれません。アメリカの人口の8%がアメリカ全体のみならず、世界全体に多大な影響を及ぼす異常事態になっています。
「この問題を解決するために、どうすればいいか?」
これが大学入試で出たら「アメリカ大統領選の選挙制度を変えればいい」が模範解答になるはずです。というより、それ以外の解答があるとは思えません。
アメリカ人がいかにバカだとしても、これに気づかないほどバカだとは信じられません。上の記事を書いた朝日新聞記者も、アメリカの選挙制度の異常さを指摘しているのに、それを変えるべきと主張していない理由が分かりません。ナチスや太平洋戦争がおかしいと頭のどこかでは認識しながらも、外形上は熱狂的に支持した国民と同じなのか、と推測するくらいです。
アメリカ大統領選挙制度を変えようと主張する人があまりに少ないことは、私にとって10年以上解決していない世界の謎の一つです。もしこの答えが分かった人がいたら、下のコメント欄に書いてもらえると助かります。