「東京電力撤退事件」の記事は誤解を生じさせているので、訂正させていただきます。正しい時系列は次のような順序になります。
2011年3月14日午後8時頃、東京電力の清水社長から政府(官邸)に撤退の許可を求める。この時に清水は一部撤退だと伝えておらず、菅首相を含む官邸の関係者全員が全面撤退だと誤解する。菅首相が清水東電社長に全面撤退は許さないと伝えると、清水はあっさり了承して、官邸関係者一同を拍子抜けさせる。菅首相が東電本社に乗り込み「逃げても逃げきれない。撤退したら東電は潰れる」と大演説をしたが、東電のほとんどの社員は菅首相の演説に反感を持つ。吉田所長もいる免震棟の人員を約700人から70人まで減らした。
ここで70人まで減らしたのは、あくまで免震棟にいる人員で、福島第一原発施設にいる人員ではありません。私はつい最近まで「福島第一原発全体にいる人員を70人まで減らした」と勘違いしていました。福島第一原発施設全体でいえば、中央制御室やガレキ処理現場に多くの人員が残っていました。
免震棟にいる人員を一気に減らした理由は、職員たちを避難させるためだけでなく、免震棟にいる650人くらいはほとんどなにもしていなかったからです。免震棟と東京本社はテレビ会議で常時繋がっていましたから、東電本社に乗り込んでいた菅首相も免震棟の人員が減ったことを十分承知しています(指導者が多すぎるとの理由で菅首相が人員を減らしたような記述の本もある)。だから、フクシマフィフティーは事情をよく知らない外国メディアが創り上げた神話に過ぎませんし、菅首相の大演説で現場職員が戻ってきた、との私の記事は間違いです。正確には、菅首相の大演説後、免震棟にいる無駄な人材が退避してくれ、食料配給に余裕が出てきています。水素爆発で生じたガレキの処理をしている現場職員は、免震棟の外におり、作業中の人たちまで減らしたわけではありません。
繰り返しますが、私が上記の事実を知ったのは「福島第一原発事故の『真実』」(NHKメルトダウン取材班著、講談社)を読んだ2022年1月、つい最近です。私は5年以上、「70人」は福島第一原発施設全体の人員だと勘違いしていました。自分の早とちりを棚に上げて恐縮ですが、「70人」は免震棟の人員だけであり、福島第一原発全体の人員でない、と明確にどの本も書いていないので、普通に読んでいたら、そう勘違いしてしまうと思います。
今でも東京電力のHPでは「東京電力が全面撤退を申し出たことはありません」と載せており、wikipediaの「福島第一原子力発電所事故」のページの「東京電力の全面撤退をめぐる報道」の記事は「誤報」に分類されています。しかし、上記のように日本政府の中枢にいる頭脳明晰な人全員が「全面撤退」だと勘違いした以上、その理屈は通らないと私は判断します。あの緊迫した状況で東電社長から「撤退していいか?」と言われたら、普通は「全面撤退」だと考えるでしょう。「全面撤退でなく、一部撤退です。これは重要な点なので、誤解されないよう伝えてください」と言っていない以上、誤解されて当然です。だから、私は今でも「東京電力の全面撤退は誤報である」は誤報だと判断します。
「海水注入問題で吉田の英断はムダだった」に続きます。