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海水注入問題で吉田の英断はムダだった

ここ5年くらいの福島第一原発の本を読んでいる人にとっては常識になっているでしょうが、知らない日本人が大半でしょうから、あえて時系列に沿って述べます。

どこの情報源なのか明確にしてほしいですが、アメリカのウォールストリートジャーナルが2011年3月19日に「東京電力廃炉につながることを懸念したため原子炉への海水注入が1日近く遅れた」と報道しました。

さらにその後、当時の菅首相は自身の交友による情報から再臨界を恐れて、3月12日、海水注入すべき時に海水注入を躊躇していたことが分かります。その首相の反応から、早とちりした東京電力副社長格の武黒が吉田所長に海水注入を止めるように指示を出しました(官邸はそのような指示を出していません)。吉田はその指示に従ったフリをしましたが、実際は海水注入を続けていました。これは吉田の英断と称えられ、一方で菅首相は注水を遅らせようとした、あるいは中止させようとした極悪人とtwitter安倍晋三に批判されたりしています。

しかし、2016年9月、実は吉田の海水注入判断もムダだったことが判明します。注水ルートを変更した3月23日まで、配管の損傷で注水はほとんど漏れ出ており、原子炉に到達していないことが判明したのです。

現在のWikipediaの「福島第一原子力発電所事故」のページの「海水注入問題」は、「吉田の英断」で事実更新は止まっています。福島原発事故に書かれた本もほとんどは2016年前に出版されているので、「菅首相の海水注入議論はムダだった」「吉田の英断により注水は続けられた」と勘違いしている日本人はいまだにいるでしょう。実際は「吉田の英断もムダだった」となります。

福島第一原発事故の『真実』」(NHKメルトダウン取材班著、講談社)を読めば、注水が適切にできていないことを吉田もうすうす気づいていたようですが、原因までは特定できず、注水ルートの変更判断もできていなかったことが分かります。

以前と同じような意見を書きます。福島原発事故は東日本壊滅寸前まで行った日本未曾有の危機でした。同じような失敗を繰り返さないように、十分に反省して、日本人全員の将来の教訓とすべきです。しかし、ほとんどの日本人は、反省を活かすどころか、基本的な事実関係も把握していないはずです。いまだに吉田所長を英雄視している人は、福島原発事故の反省を活かせていない最もひどい例でしょう。たとえるなら、第二次大戦後にも「精神に重きをおきすぎて 科学を忘れて」、特攻隊を神聖視するようなものです。本来学ぶべきことと反対のことを学んでしまっており、将来、同様な失敗を避けるどころか、呼び寄せてしまうことになりかねません。