前回の記事の続きです。
「ネットは社会を分断しない」(田中辰雄、浜屋敏著、角川新書)では、個人の保守とリベラル度合いを次の10個の質問に対して「強く賛成(-3)」「賛成(-2)」「やや賛成(-1)」「どちらでもない(0)」「やや反対(1)」「反対(2)」「強く反対(3)」の7段階のアンケートで示しました。
1,憲法9条を改正する
2,社会保障支出をもっと増やすべきだ
3,夫婦別姓を選べるようにする
5,原発は直ちに廃止する
6,国民全体の利益と個人の利益では個人の利益の方を優先すべきだ
7,政府が職と収入をある程度保障すべきだ
8,学校では子どもに愛国心を教えるべきだ
9,中国の領海侵犯は軍事力を使っても排除すべきだ
10,現政権は日本を戦前の暗い時代に戻そうとしていると思う
1,8,9は賛成するほど保守で(答えの+-を逆転させて計算)、他は賛成するほどリベラルとみなしています。10個の回答の合計点を10で割ると、次のように、ほぼ正規分布に近くなったようです。
この平均値は-0.2であったので、-0.2からどの程度離れているかで、その人の分極度を示します。たとえば、10個の質問の平均点が0.7なら分極度は0.9で、平均点が-0.4なら分極度0.2です。
この分極度の年代別に示したグラフが下のようになります。
高齢者になればなるほど、政治的に極端な意見を持っているようです。これは分断が進んでいる原因がネットの使用にある、との仮説と矛盾します。若年層であるほどネットを使用しているからです。
同じような研究がアメリカでも行われていますが、インターネットの普及で分極化が進んでいるのは高齢者であることが示されています。
なぜでしょうか。
長くなるので省略しますが、実はネットでは選択的接触はあまり起こっていなかったからです。つまり、ネットは情報取得が無料で容易であるため、自分の反対意見にも多く接していることが「ネットは社会を分断しない」で統計的に示されています。もっと書けば、従来のマスメディアしか使わない人たちよりもネットを使っている人たちの方が多様な意見に接しているからです。ネットから自分の反対側の意見とも接している人の率はほぼ4割です。アメリカ、ドイツ、スペインの研究でも同様の値が出ているそうです。
それでは、前回の記事に書いたように、ネットが意見を先鋭化させる、との誤解はどうして出てきたのでしょうか。その疑問に答える前に、下のグラフにあるように、多くの人はネットでの議論が不毛であると感じている統計結果を示しておきます。
この理由は簡単です。ごく一部のヘビーライターが過激な意見を書きまくっているからです。例えば、憲法9条改正について、95%の人は過去に一度も書き込みしたことがありません。一方で、実際にネットに書き込まれた意見の半数は、過去1年間で60回も書き込んだ人たちであり、それは全体の0.23%に過ぎないことが示されています。
普通に考えれば、強い意見を持っている人ほど、つまり極端な意見を持っている人ほど、ヘビーライターになりがちです。憲法9条に対する意見でも、実際には少数派なのに、ネットでは多数派に見えてしまう珍現象が生じています。このためネットの議論は不毛になりがちなのです。