未来社会の道しるべ

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日本人は森林の重要性を認識すべきである

林業がつくる日本の森林」(藤森隆郎著、築地書館)は、日本人の森林の関心不足、知識不足を繰り返し嘆いています。1970年代までは世界のどの国も森林管理の理念は木材生産の保続管理でした。つまり林業主体で森林管理を考えていましたが、1992年リオデジャネイロの第3回地球サミット以降、国際的な理念は「持続可能な森林生態系の管理」と変わっています。林業だけでなく生態系および環境破壊も考慮した視点に変わっていったわけですが、日本はいまだに木材生産の保続管理を中心とした政策ばかりのようです。何度か改正されたとはいえ、いまだに1897年成立の森林法が残っており、2001年に成立した森林・林業基本法も持続可能な森林生体系の管理を理念とするものになっていない、と著者は批判しています。新しい理念に沿った法体系の整備は必要のようです。

1970年代まで日本の伐採周期は40年でした。その理論的根拠は40年生前後が植栽から伐採までの間の林分の平均成長量が最大なので、その周期で伐採すれば生産量が最大になる、ということでした。しかし、この根拠は科学的にろくに精査されていなかったようです。著者の勤めていた森林総合研究所の長期モニタリングでは平均成長量は70から100年でもそれほど落ちないことが示されています。しかし、現在でも行政では40年を標準伐採期とする考えが一部残っているようです。

主材で同じ収穫量を得るためには、短い伐採周期ほど伐採面積が大きくなってしまいます。1970年代後半に環境問題が大きな政治問題になると、大面積伐採に対する国民の批判が高まり、それに合わせて伐採周期は従来の2倍の80年に変わりました。著者もこの流れに賛成し、100年くらいの間伐周期を提案しています。100年間伐1回の方が、50年間伐2回よりも植栽、下刈り、つる切りの経費が半分で済み、かつ、収穫材積量は何割か高いからです。

前回の記事に書いたように、日本の木材自給率は28%まで下がりましたが、その大きな原因は木材輸入自由化です。「ウルグアイラウンドとTPP交渉に見る日米外交の根本的な違い」の例にもあるように、一次産業生産物の自由化なので木材輸入自由化は外国からの圧力によるものかと思ったら、そうではありません。日本が自発的に外材の自由化を始めたのです。木材不足による価格の高騰が日本経済の足を引っ張っていると考えた経済界の要請により日本が安い外材を購入できるようにしたそうです。農家たちが抵抗すると、他が全て賛成でも、ウルグアイラウンドやTPPを停止させるほどの政治力があったのに、なぜ林業家たちはあっさり経済界に負けてしまったのでしょうか。

理由は簡単です。林業従事者は1965年でも約25万人しかいません。2010年に至っては約5万人です。一方、農家は激減した2018年でも175万人、ウルグアイラウンドの頃の1985年には543万人です。文字通り桁が違うのです。

しかし、単に従事者の数が多いから、林業を軽視して農業を重視しているのなら、日本にいる全ての人にとって大切な環境問題を見落としてしまうことになります。今からでも遅くないので、政治家、マスコミ、日本人全員は森林および林業の重要性を認識し、関心を高め、知識を増やすべきでしょう。

次の記事に続きます。