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京アニ放火事件の死者数はなぜ明治以後最悪になったのか

タイトルの答えは簡単で、放火だったからです。

私の小学校の先生がこんな話をしていた記憶があります。

地震も、火災さえ起きなければ、そう怖くはない」※

日本史上最大の死者数を出したのは1923年の関東大震災で、約10万人です。死因の9割は津波や建物崩壊ではなく、火災です。関東大震災より40倍もエネルギーの大きい2011年の東日本大震災は、約2万しか死者が出ていません。死因の9割は津波で、火災による死者は1%程度です。単純な比較はできませんが、関東大震災の教訓から、地震による火災予防がされていたため、関東大震災の5分の1の死者数で済んだ側面はあったはずです。

被災者数では関東大震災に匹敵すると思われる1995年の阪神淡路大震災の死者数は約6千人です。関東大震災より桁外れに低く済んだ原因は、火災が小規模に抑えられたことも大きいでしょう。

火災犯罪だと死者数が多くなるのは、36名殺人の京アニ放火事件に限りません。戦後最悪の火災死者数118人を出した1972年の千日デパート火災の原因は、電気工事関係者のタバコの不始末だったとの説が最有力です。刑事裁判では「原因不明」として不起訴になりましたが、もし起訴されていたら、当事者は京アニ放火事件の3倍もの死者を出した凶悪犯人として、間違いなく死刑になっていたでしょう。

他にも、2001年の歌舞伎町雑居ビル火災は44人が死亡し、犯人は特定できませんでしたが、放火説が最有力です。また、2021年の大阪精神科クリニック放火事件は犯人を含む死者数が27で、京アニ放火事件に次いで戦後2番目に死者数の多い犯罪となりました。

相模原障害者施設殺傷事件の原因は謎のまま終わるのか」の記事で、「19人と数において戦後最悪の殺人事件」と私は書いていますが、これは間違いです。書いている途中で、京アニ放火事件の死者数が多いことに私は気づきましたが、放火事件は「死者数が極端に多くなる」特殊な例であるとして、無視することにしました。なお、相模原障害者施設殺傷事件以前に、日本で死者数が最も多い刑事事件は、2008年に16人の死者を出した大阪個室ビデオ店放火事件で、やはり放火になります。

「最も重い罪は、放火罪だ。殺人より重い。放火は無差別に人を殺すから、絶対にしてはいけない」

これも私の小学校の先生の言葉です。実際のところ、日本の刑法で最も重い罪は外患誘致罪なので、間違いでした。ただし、放火が多数の命を簡単に奪いやすいことは事実です。「放火は無差別に人を殺すから、絶対にしてはいけない」は間違いではなかったと思います。

さらに書きます。言うまでもありませんが、火災とは比較にならないほどの大量殺人になる事件は戦争です。通常、戦争は犯罪になりませんが、普遍的価値観からすれば、人による最も恐ろしい犯罪です。また、火災と同等かそれ以上に殺人者数が多くなるのが、貰い子殺人事件です。1948年に発覚した寿産院事件は、警察調査で死者84人(起訴されたのは27名)と、京アニ放火事件の2倍以上です。1913年の愛知貰い子殺人事件では、200~300人もの幼児が殺害されています。貰い子殺人事件も、比較対象外としていました。

 

※日本の歴史上で3番目に死者数が多い地震は、1896年の明治三陸地震で、東日本大震災同様に約2万人と見積もられ、死因のほとんどは津波と推定されています。これからすれば「地震も、火災さえ起きなければ、そう怖くはない」は津波を無視しているので、間違っているとは思います。