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秋葉原通り魔事件はどうすれば防げたのか

このブログで何度か書いていることですが、凶悪犯罪者の本を読むと、私は自分との共通点をよく見つけてしまうのですが、とりわけ加藤と私の共通点は多いです。母の教育が厳しすぎたこと、長男であること、弟よりも長男に厳しくしたことを親ですら認めていること、おねしょがなかなか治らなかったこと、県内の名門公立高校に進学していること、オタクであること、インターネットの掲示板で殺人を考えるほどイライラさせられたことは、私と全く同じです。ただし、加藤の母は「お前たち(加藤とその弟)がこうなってしまったのは自分のせいだ」と謝罪して、以後、加藤に対して十分に優しくしていますが、私の父母は全くそんなことはなく、現在に至るまで私の心の琴線に触れることばかりしてきます。

秋葉原事件」(中島岳志著、朝日文庫)には、犯罪の原因と考えられる要因を列挙してあります。

母の厳しすぎる教育と過度の介入、内面を見せることが苦手な性格、不満を言えず行動でアピールするパターン、キレやすい性格、突発的な暴力性、勉強の挫折、学歴へのコンプレックス、非モテ、外見、掲示板への没入、ベタのネタ化とネタのベタ化、承認欲求、借金、家族崩壊、職場放棄、地元からの逃亡、先輩や友人への裏切り、満たされない性欲、不安定就労、派遣切り、ニセ者(なりすまし)、荒らし、無視、孤独、不安……。

このうち根本的な要因をあげれば、最初の「母」になると考えます。母の教育により「内面を見せることが苦手な性格、不満を言えず行動でアピールするパターン、キレやすい性格、突発的な暴力性」といった性格ができ、その性格により「借金、職場放棄、地元からの逃亡」といった環境が生じると同時に、「掲示板への没入、ベタのネタ化とネタのベタ化、ニセ者、荒らし」といったネット上の問題も発生したからです。

秋葉原通り魔事件の犯人である加藤智大の母は、現在の言葉を使えば、毒親です。たとえば、母がキャベツを三つの皿に分けて盛りつけたところ、幼い加藤がそれを一つの皿にまとめると、母が激怒し、加藤の首の後ろを押さえつけて、窓から落とそうとしました。後に裁判で加藤は「抵抗しなければ落ちていたと思います」と語り、母もそのような事実を認めています。

この母のとりわけ罪深いところは、怒る理由を説明しなかったことです。加藤が理由を聞いたり、抵抗したりすると、さらに叱責が続くため、加藤は叱られることにただ耐えるだけになっていました。この母の教育のせいで、加藤だけでなく、その弟も自身が怒る時にその理由を説明しない性格になったようです。加藤は嫌なことがあると、当てつけ行為を繰り返しますが、大抵の場合、当てつけ行為の意味は周囲の者たちに理解されていませんでした。

たとえば、10年来の友だちの谷村(仮名)は高校時代に突然、加藤に殴られたことがあります。谷村は加藤になぜ殴られたか全く分からず、二人の関係はしばらく気まずいものになりましたが、仲間の仲介により、関係は修復されます。加藤が殴った理由は「谷村にゲームにケチをつける言動があった」からなのですが、谷村がそれを知ったのは遥か後、なんと犯行後、加藤の担当弁護士を通じてです。

また、加藤が大学に行かなかった理由は、母が「北大に行かないなら車を買ってやらない」と言ったことに対する当てつけでした。さらに、整備士の資格を取るためだけにあるような中日本自動車短期大学で整備士の資格をとらずに卒業したのは、父が奨学金を振り込まないことに対する当てつけでした。このどちらの当てつけ行為においても、加藤は母にも父にもその理由を言っていません。このように加藤の当てつけ行為は、相手に理解されないことがほとんどであり、意味のない当てつけになっていますが、加藤は相手が理解しているかの確認すらしませんでした。恐ろしいことに、秋葉原通り魔事件も「インターネットで自分になりすました者や、その掲示板の管理人」への当てつけ行為でした。八つ当たりもいいところですが、加藤は7人もの死者、10人もの負傷者を出した事件の裁判でも、大真面目にそれが動機だったと語っています。

とはいえ、加藤はコミュニケーション能力の低いオタクではありません。小学校の頃から友だちは複数いて、それどころか、中学2年生に初めての彼女ができて、中学3年生にはその次の彼女までいました。中学生で彼女がいるなど、私の価値観でいえば、勝ち組男子です。犯行後に明かされたネット上のネガティブな書き込みばかりを読むと、典型的なコミュ障のオタクを想像してしまいますが、リアルな加藤はそれなりにコミュニケーションがとれて、どこの職場でも友だちができています。よくキレるという欠点があったので、加藤を苦手に思う者もいたでしょうが、小学校、中学校、高校、社会人と加藤の友だちでいた地元の友人も数名います。このような長期間の友だち、特に10年来の友だちなど、どう友だちの定義を広く見積もっても、私には一人もいません。

このように加藤と私の違う点もありますが、加藤が殺人犯になって、私がそうならなかった要因で、決定的だと思うのは「借金」になるでしょう。奨学金を除けば、私は借金を背負ったことはありません。借金さえなければ、加藤は殺人事件までは起こさなかった可能性が高いでしょう。

加藤は職場を何度も変えて、逃げるように住む場所まで変えていますが、これは他の凶悪殺人犯と共通しています。私が今思いついただけでも、連続射殺事件の永山則夫、福岡内妻一家4人殺害事件の秋好英明がいます。この3人とも「家庭支援相談員」のような福祉職が転職前から付き添っていれば、凶悪殺人犯にならなかったと思います。というのも、この3人ともほぼ全てのケースで、追い詰められていると誤解して、転職、引っ越ししているからです。誤解さえなえければ、あるいは適切な助言さえあれば、本人でさえ転職すべきでないこと、引っ越しすべきでないことは容易に理解できたはずです。

また同じ結論になってしまいますが、秋葉原通り魔事件を防ぐためには、社会の一人の取りこぼしも作らない「家庭支援相談員」が必要だったと私は考えます。これにより、加藤の転職や引っ越しを防げただけでなく、大元の毒親による子育ても防げたと考えるからです。

次の記事に続きます。