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相模原障害者施設殺傷事件の原因は謎のまま終わるのか

19人と数において戦後最悪の殺人事件である2016年の相模原障害者施設殺傷事件には不可解な点があります。犯人の植松聖の両親がどのように植松を育てたかについての情報が全くないことです。「障害者なんていなくなってしまえ」という理由で障害者施設に忍びこみ大量殺人を犯すなど、世界史上にも例がないでしょう。当然、植松のような凶悪犯人がどうして現代日本に生まれたのかの検証が徹底的に行われるべきなのに、肝心要の両親の子育て情報がありません。友だちや恋人の証言は多いのですが、植松の人格形成に影響を与えた人物は出てきません。

「犯罪は社会を映す鏡である」という言葉があるように、確かに、この犯罪は現在の社会状況を反映しています。トランプ大統領の暴言が大衆から支持されていることが犯行動機の一つです。「(トランプは)勇気を持って真実を話している」「真実を言っていいんだと思った」と植松自身が証言しています。犯行直後に「beautiful Japan!!!!!!」とツイッターに投稿しているところからも、植松の犯行の背景に安倍晋三ネトウヨの台頭があります。

しかし、トランプ大統領の影響を受けているのならアメリカで起こるべき事件ですし、新保守主義ネトウヨが隆盛しているのは世界的傾向で、日本だけ特別なわけではありません。友人や恋人の証言や社会背景だけでは、ここまで道徳に反する凶悪事件を起こした理由は特定できません。

こちらのブログで既にとりあげた「三菱銀行人質事件」「土浦連続殺傷事件」は、犯人がどのように家族に育てられたかについての記載が豊富にあります。しかし、「妄信」(朝日新聞取材班著、朝日文庫)「相模原障害者殺傷事件」(朝日新聞取材班著、朝日新聞出版)と2冊も同事件についての本を出版していながら、どういうわけか、朝日新聞取材班は植松がどのように家庭で育ってきたか、ほとんどなにも書いていません。家族についての記述は、父が小学校教師で、母がマンガ家、植松聖が一人っ子であることくらいです。

もちろん、家族についての情報を出すべきでない場合はあります。家族についての情報を出せば、たとえどんな情報であっても、専門家から一般人まで多くの人が「こいつらの子育てが悪かったから、こんな凶悪事件が起きた」と厳しく批判します。それこそ、私が「三菱銀行人質事件」「土浦連続殺傷事件」で家族の子育てにそれら凶悪事件の原因があると指摘したように、です。

かつて「冷蔵庫マザー」や「母原病」という言葉がありました。統合失調症自閉症は母の育て方に原因があると指摘されていたのですが、今ではほぼ否定されています。統合失調症自閉症は、ほとんどが遺伝や脳の器質的異常で罹患します。自分の子どもが統合失調症自閉症だっただけでも辛いのに、その原因が自分にあるとされることで、親たちはさらに大きく苦しむことになりました。「冷蔵庫マザー」はアメリカで20年以上も医療界で受け入れられ、「母原病」という本は日本で100万部以上も売れました。この科学的とは言えないレッテル貼りの弊害は甚大です。

おそらく、相模原障害者殺傷事件で植松の家族や子育てについての記事がないのは、そういった視点から犯人家族への非難を防ぐ意図があったのでしょう。

しかし、それでも、植松の両親がどのように子育てしたかの記事は必要だったと私は考えます。これほどの凶悪事件の原因が不明になる弊害を考えれば、植松の両親に非難が集中する弊害を上回ると考えます。かりに植松の両親の子育てが正しかったのなら両親を擁護する意見も来るはずですし、もし植松の両親の子育てが間違っていたなら、これだけの凶悪事件の責任者として非難は受けるべきだからです。他の多くの凶悪事件の本では、ほぼ例外なく犯人の両親についての取材が載っています。まして、植松は事件当時26才であり、子育ての影響が確実に残っている若さです。

こういった若者による凶悪事件では、裁判でもしばしば両親の子育てが取り上げられます。しかし、これも理由不明ですが、この事件では裁判でも両親の子育て問題が取り上げられていません。少なくとも本では記述されていません。ここまで両親が無視されていると、両親を世間の非難から守る以外の理由もあるのではないか、と勘ぐりたくもなります。

たとえば、両親は精神疾患を持っているのではないか、とも私は推測します。後の記事に書くように、植松自身にも精神疾患があったか、少なくとも理性的な説得が難しい人間性であると私は考えています。精神疾患に遺伝性が強いことは医学的事実です。もし植松の両親が精神疾患であるなら植松も精神疾患の可能性が高くなるので、植松の精神疾患を否定したい(精神疾患が認められると減刑や無罪になるため)検察側はその事実を隠すでしょう。弁護側は減刑のために植松本人の精神疾患は主張しても、精神病患者への偏見を助長することになるので(植松が精神病院に措置入院した報道で既に助長していたので)、植松の両親の精神疾患は隠すでしょう。

もちろん、植松の両親の精神疾患は私のただの仮説です。マスコミは植松の両親の子育てについて記述しない理由すら書いていません。両親について書かないと決断したとしても、せめてそう決断した理由くらいは書くべきでしょう。両親に取材したが頑強に拒否されたのか、そもそも取材すらろくにしなかったのか、取材したが公表しなかったのか、もしそうだとしたならその理由はなんなのか、全く分かりません。

このまま戦後最悪の殺人事件の原因は謎のまま終わるのでしょうか。植松の両親が生きている間に、誰か今からでも両親に取材してほしいです。