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中国の現実的外交は、ある国と同じである

今年3月10日のイランとサウジアラビアの国交正常化を中国が仲介したニュースには驚きました。対立する両国家の関係を正常化させるなど、国連など国際機関を除けば、アメリカとソ連(ロシア)くらいしかできなかった特権を中国が持ったのですから、私の世界観では、ロシアがウクライナと戦争した以上に重要な歴史の転換点です。

中東に限らず、世界中の発展途上国で中国の存在感が激増しています。中国の外交方針は、人権重視のアメリカと異なり、経済重視と言われます。そうなると「中国は人間の尊厳を踏みにじって金儲けしている最低な国家だ」という印象を持ちそうですが、ウクライナ戦争で、中国はロシア寄りではあるものの、下の国連決議にもあるように、ロシアに全面的に賛成しているわけではありません。

ウクライナ戦争では、人権面でロシアがウクライナより非難されるべきことまで、中国は否定していません。それと同様、世界中の中国の経済進出で、中国は現地の人権面を軽視していると言われるのは仕方ないにしても、無視しているとまでは言えないと私は考えています。

アメリカや西洋諸国は、人権が守られることを大前提としているため、人権面を軽視する独裁国家だと、経済的な関係を一切持とうとしません。そのような外交方針だと、政治的に遅れた国が、経済的にも遅れることになり、現地の人たちはさらに苦しい生活を送らなければなりません。それでは現地の人たちがかわいそうなので、人権が重要なことは認めながらも、経済的な関係は保ち、現地の人たちに少しでも楽な生活を送らせるべきでしょう。また、衣食足りて礼節を知るという言葉のように、経済的に発展すれば、いずれ政治的にも人権面が保護される可能性が増してくるはずです。これが中国の外交方針です。

ある程度、外交を勉強した人なら知っているでしょうが、上記のような外交方針は、ある国も持っています。日本です。「西洋諸国は人権を重視しすぎて、現実を無視している。人権が大切なことは否定しないが、発展途上国に西洋並みの人権を保護させるのは現実的でない。日本は現実的な外交を展開する」といった言葉は、日本の外交でよく出てきます。ミャンマーはその代表例です。しかし、現在の中国が位置する世界第2の経済大国を50年近くも続けてきたのに、日本が現在の中国並みに外交で存在感を持った時は、第二次大戦後、一度もありません。

その最大の理由は、現在や今後数十年間の中国ほど、日本は経済力や軍事力がなかったことでしょう。ただし、右翼からも左翼からも批判される通り、日本の外交理念の弱さもあったことは忘れるべきではありません。

こちらのブログで書いてきた通り、もう150年以上、日本は外交理念が弱いため、外交で痛恨の失敗を重ねています。

幕末の稚拙な外交政策から日本は教訓を得ているのか」に書いたように、幕末期、日本側の無知のために、日本は欧米列強と不平等条約を結んでいます。さらに、それから150年もたっているのに、「ペリーやハリスは不平等条約の締結を目的としていなかった」「ペリーが日本に来た一番の目的は、中国と交易したかったから」という基本情報すら一般に広まっていません。「日本の歴史学会はいつになったら客観性を身に着けられるのか」でも嘆いたことですが、日本は客観的な外交事実すら把握できていないので、国際的に通用する外交理念を形成できないのかもしれません。

なぜ岩倉使節団は不平等条約を改正できなかったのか」に書いたように、岩倉使節団アメリカの「全権委任状がない」との無理難題に振り回された上、最低限言うべきことも言っていないほど、アメリカに媚びへつらいました。

日本外交のトラウマ」に書いたように、湾岸戦争時に日本は1兆5千億円も金を出したのに、アメリカ側から「じゃあ、その金をあげるから、あなたが戦争言ってくれ」と言われて、日本の首相がなにも言い返せなかった、という侮辱を受けています。

湾岸戦争のトラウマ」から本来あるべき方向と真逆に進んだので、イラク戦争NATO加盟国であるドイツやフランスは断固として反対したのに、日本は自衛隊派遣に徹底してこだわったので、「日本はアメリカの属国」などと批判されています。

日本は民主主義国家なので、日本に外交理念が弱いため外交で失敗ばかりしているのは、「日本人が開明思想を持っていれば幕末・維新の悲劇は少なかったはずである」に書いたように、日本人全体が国際的に通用する理念を持っていないからです。「日本が負けるに違いない太平洋戦争を始めた本質的理由、あるいは日本が第二次大戦で負けた本質的原因」に書いたように、そんな理念がないからこそ、日本は第二次大戦の失敗を犯したのです。

また、国際的に通用する外交理念を東大卒のエリート警察官すら持っていなかったから、「なぜカンボジアPKOで警察も派遣したのか」からの一連の記事で私が批判したように、カンボジアPKOの警察派遣で失敗するのです。また、「カンボジアPKOの最大の失敗」は検証不足にあるように、日本は外交の失敗を適切に検証していないから(外交に限らず、日本は全ての政策について検証不足ですが)、外交で失敗を繰り返し続けています。