未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

多くのベトナム人が日本に来たがる理由と失踪する理由

「ルポ技能実習生」(澤田晃宏著、ちくま新書)の記述に、私は共感しました。共感した部分はいくつかありますが、そのうちの一つがベトナム人技能実習生に対する「嫉妬」です。わずか3年間日本で働いただけで、下の写真のような家が300万円で建った成功例を見て、「俺も技能実習生になりたい」とまで著者は言ったそうです。

ベトナムはアジアの中でも極めて貧しい国であり、衛生面は悪く、日本に来る技能実習生に「近くの沼などで魚やカエルなどを捕まえて食べたりしない」と注意喚起するほどの後進国です。だから、「普通の日本人が貧しいベトナムで生活することなど耐えられるわけがない。この記者は世間知らずか」とも思いますが、高卒記者の著者が嫉妬する気持ちも分かります。「あの成長著しい国で生まれていれば、もっと努力できて、もっと幸せになれて、もっと価値ある仕事ができていたのに」と、私も発展途上国の若者が羨ましくなったことが何度かあったからです。

ベトナムから日本に来ている技能実習生のほとんどは、ハノイホーチミンなどの都会出身でなく、地方出身の若者です。ベトナムの地方での月給は2万円程度で、農家であれば月1万~1万5千円にしかなりません。一方、日本で働くと、手取りで11万円ほど手に入り、8万円ほどが貯金でき、3年で300万円程度になるようです。ベトナムバクザン省出身の元日本留学生によると、「私の故郷には、実習生が建てた家がたくさんある」そうです。

つまり、多くのベトナム人が日本に来たがる理由は「金」です。だから、日本人と違い長時間労働は大歓迎です。休みなく働き、できるだけたくさん稼ぎたいのです。あるベトナム人技能実習生にしては珍しく、一人一部屋で昼食も無償提供され、「労働環境はとてもよかった」のですが、「残業が全くできない」ので不満だと言っています。

技能実習」なので、日本の技能をベトナムに移転することを目的としていますが、建前に過ぎません。日本の実習生受入企業の6割は従業員19人以下の零細企業です。そうした企業に、国際貢献に寄与できるほどの余力はありません。日本の企業は単純に労働力を求めていますし、ベトナム人も単純に金を求めています。

それでも法律上、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」となっているので、変な弊害も出ています。それが技能実習生に課される「前職要件」です。技能移転が目的なので、日本で従事する仕事に母国でも働いていた経験が要件となっているのです。しかし、日本の受入企業が技能実習生にしてもらいたい仕事の多くは単純作業です。日本企業はこの前職要件を満たす外国人からだけ採用したいわけではありませんし、外国人も前職と同じ仕事に日本で就きたいわけでは全くありません。

だから、職歴の偽装が常態化している、と日本側の監理団体もベトナム側の送り出し機関も口を揃えます。1件100ドル程度で偽造書類を作成してくれる会社がベトナムにはあります。最低、半年程度の職歴が必要という建前なので、実習生として応募できるのは、通常、学校卒業の半年後になりますが、卒後半年が待てないために、大卒者が高卒だと偽るケースまであるようです。この偽装書類作成の手間賃も結局、技能実習生に払わせているので、前職要件は即刻、なくすべきでしょう。

ベトナム人が日本に来たがる理由はお金であるように、失踪する理由もお金になります。2019年の失踪技能実習生に対する法務省の調査によると、失踪理由で一番多いのは「低賃金」で67%です。次に多い理由も「実習終了後も稼働したい」で18%と、やはりお金が理由です。他の失踪理由の「指導が厳しい」の13%や「暴力を受けた」の5%よりも多いのです。

「大半の実習生は日本で成功している」に続きます。