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留学生から特定技能に移行しなかった理由

コロナ禍前の統計ですが、日本にいる外国人の資格内訳は下の通りです。

出稼ぎ目的の外国人が日本で実習生と留学生になる理由」に書いた通り、技能実習生だけでなく、留学生にも出稼ぎ目的の者が少なくありません。留学生は週28時間のアルバイトが認められており、これは諸外国と比較して長く、月に10万円ほど稼げます。場合によっては違法でそれ以上働けます。

前回の記事に書いたように、日本は34万5千人の特定技能のうち45%は技能実習生からの移行を想定と公式に発表していました。それ以外の55%の多くは、非公式ながら、これまでの留学生で満たすことを目論んでいたようです。その証拠が、特定技能を新設した改正入管法の議論の前後で、留学希望者に対する審査が極端に厳しくなっていることです。日本語学校への4月入学ビザ交付率を2018年と2019年の東京入管分で比較すると、ミャンマー人は83.7%から4.3%、ネパール人は47.8%から2.3%、バングラデシュ人は68.8%から0.8%と、まさに激減です。交付率が下がっていないのは中国人だけで、これはアルバイト目的の中国人が少ないからです。

この留学生出稼ぎ外国人を阻止したのは、「出稼ぎ目的なら留学生ではなく特定技能として来てください」という日本側のメッセージと考えて間違いないでしょう。しかし、前回の記事にも書いたように、特定技能はあまりに拙劣な制度設計だったため、初年度に目標の10分の1の人数も受け入れられませんでした。留学生からの特定技能への移行も円滑に進みませんでした。

結果、日本の外食産業の人手不足が深刻化しました。技能実習で外食産業は認められておらず、外食産業の慢性的な人手不足はここ20年ほど留学生で補われていたのです。しかし、出稼ぎ目的の留学生は阻止したものの、その穴埋めになるはずの特定技能の受入は失敗しました。2019年の外食産業の特定技能の受入想定人数は4000人でしたが、実際にはわずか100人しか受け入れできませんでした。もし2020年にコロナ禍がやってこなければ、外食産業の人手不足は惨憺たる状況になっていたはずです。

それにしても、これから来る留学生はともかく、既に日本に来ている留学生たちは、なぜ特定技能に移行しなかったのでしょうか。留学生は、技能実習生と異なり、日本語学校などに通っているので、日本語テストについてはN4くらい容易に取得できるようです。もう一つの技能テストも、日本にいれば難なく受験できます。実際、留学生からの移行を非公式に目指したこともあり、外食産業は他業種に先行して技能テストが日本国内で実施され、2019年で1546名も合格しました。しかし、実際に特定技能を取得したのは37名だけです。留学生だと週28時間しか労働できませんが、特定技能だともっと働けて、もっと稼げます。出稼ぎ目的であれば、特定技能に移行した方がいいのですが、なぜ留学生は移行しないのでしょうか。

本には、その理由を二つあげています。一つは国民年金の未納です。日本の社会保障制度は、国籍に関係なく適用されるため、国民年金も支払い義務がありますが、少なくない留学生は国民年金を払うメリットがないので、未納にしています。未納だと特定技能への移行でひっかかるようです。

もう一つの理由が、留学生は特定技能ではなく、一般的な就労ビザ「技術・人文知識・国際業務」を取得したいからです。就労ビザは、特定技能と異なり、日本に家族を呼ぶことができ、更新が可能です。そういった人たちにとって、特定技能は滑り止めに過ぎず、技能テストも受けたら合格した、くらいの認識のようです。

前回と今回の記事に示したように、特定技能制度はメチャクチャで、コロナ禍がなければ、もっとボロが出ていたことでしょう。外国人労働者、あるいは移民問題は、日本の経済・政治・社会に関わる重要問題です。国民全体が特定技能・技能実習生・留学生の問題についてもっと広く深く知らなければならないのですが、これまでの私の一連の記事に書いた基本知識を持っている日本人は、監理団体や日本語学校や受入企業などの関係者を除けば、1%もいないでしょう。マスコミの人たちだって、これら基本知識の半分も持っていないのではないでしょうか。

このブログで何度も繰り返したことですが、日本の外国人労働者問題の一番の基本なので、また書いておきます。日本は労働力不足です。日本人が嫌がる仕事を低賃金でしてくれる外国人労働者様は、日本経済を活性化してくれる金の宝です。私のよく知る業界でいえば、夜間の介護者不足などは深刻で、一人外国人労働者が来てくれただけで、救われる高齢者が確実に数人増えます。マスコミも介護殺人を一人でも減らしたいと本気で考えているのなら、感情的な報道を流すだけでなく、解決に直結する外国人介護者を増やすように主張すべきです。介護職だけでなく、日本には外国人労働者が一人来てくれるだけで助かる職場が、他にも山のようにあります。

西洋諸国のように、移民が押し寄せるような心配をする必要は、まずないでしょう。事実、技能実習の期間も特定技能の期間も、永住権取得に必要な10年間には含まれないように設計されていました。上記のように、これだけボロのある法案を成立させたくせに、移民を防ぐ条文だけは完璧に仕上げているのです。日本の政治家たちはそこだけは抜け目ないので、安心して外国人労働者をどんどん受け入れて、私たちの生活をより便利にしてもらいましょう。