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死刑よりも反省し、被害者に償うべきでないのか

下は熊谷男女4人殺傷事件で死刑が確定した尾形英紀の手紙で、「絞首刑」(青木理著、講談社文庫)からの抜粋です。

 

俺の考えでは死刑執行しても遺族は、ほんの少し気がすむか、すまないかの程度で何も変りませんし、償いにもなりません。俺個人の価値観からすれば、死んだ方が楽になれるのだから償いどころか責任逃れでしかありません。

だから俺は一審で弁護人が控訴したのを自分で取り下げたのです。死を受け入れる代わりに反省の心を捨て、被害者・遺族や自分の家族のことを考えるのを止めました。

なんて奴だと思うでしょうが、死刑判決で死をもって償えと言うのは、俺にとって反省する必要ないから死ね、ということです。人は将来があるからこそ、自分の行いを反省し、繰り返さないようにするのではないですか。将来のない死刑囚は反省など無意味です。

 

1977年生まれの尾形はサラリーマン家庭で育ちます。尾形はごく普通の少年だったと本では書いてありますが、学業成績は悪く、指導要録には「友に誘われると手悪さあり(小3)」「根気に欠け、分からないことでも投げ出してしまう(小6)」「友だちとの遊びの中で不正の行動に走りやすいところがある(小6)」と書かれています。私の感覚では、小学生から不良です。

当然、中学の後半からは不良行為に拍車がかかり、タバコやシンナーを吸い、バイクを盗み、同級生との金銭トラブルから傷害事件を起こしています。中学生のうちから暴力団関係者とも交友を深め、高校2年で退学した後は、地元の暴力団事務所に入り浸るようになります。

飲酒の上での傷害事件などを起こし、静岡と東京の少年院に2度にわたって入所しました。出所後は実家で暮らしますが、再び酒に酔って、暴行や恐喝未遂事件などを引き起こし、1998年に懲役1年6ヶ月、保護観察付き執行猶予5年の判決を受けています。

判決後の一時期、飲み屋で知り合った女性と結婚し、長女が誕生したため、暴力団から足を洗い、コピー機のトナー製造会社に派遣社員として真面目に勤務していたそうです。2年間はトラブルを起こすこともなかったので、保護司は2000年6月、保護観察の仮解除に踏み切ったそうです。私に言わせれば、暴力団とも交流のあった奴をわずか2年大人しくなったからといって、保護観察の仮解除をするとは甘すぎます。

事実、早くも2001年1月に尾形は酒に酔って暴行事件を起こします。執行猶予中だったので、懲役2年の実刑が科されます。

ある捜査県警者は後にこう語っています。「確かにもともと病的にカッとしやすいところはあるが、普段は極めて理性的な男だった。特に酒を飲んで興奮すると手がつけられないような状況になってしまうことがある。トナー製造会社勤務の頃、落ち着いた生活をしていたのは、職場がシフト制で酒を飲む機会が少なかったこともあるんじゃないだろうか」

もしそう考えたなら、尾形に断酒治療を受けさせるべきでした。

外見上、尾形が真面目だったことは事実なようで、2002年10月には仮出所が許されています。しかし、違法なゲーム喫茶で働きはじめ、再びヤクザ者との交流が深まります。2003年7月には自分でゲーム喫茶を開業し、客はヤクザばかりでした。

同じころ、児童自立支援施設を出たばかりの16才の少女マキを尾形がナンパして、マキと性交渉を重ねます。マキは風俗店で働いており、そこの店長とも交際していました。尾形は「マキは俺の女だから、ちょっかいだすな!」と店長を脅していました。

犯行前日、尾形はマキとラブホテルで過ごし、2~3時間しか寝ずに犯行当日を迎え、ゲーム喫茶で朝5時まで働き、自宅で500mlの缶ビール何本かと焼酎の水割りを4~5杯飲みます。その朝からマキは何度も尾形の携帯電話を鳴らし、結局、尾形は一睡もせずに近くのファミリーレストランでマキに昼食をおごることになります。そこでも尾形は生ビールのジョッキ4杯とウォッカのジョッキを飲んでいます。マキが風俗店店長の愚痴を語ると、「締めに行くか」と尾形はマキを連れて店長のアパートにいって、包丁で惨殺しました。同じアパートにいた3人の女性は尾形らの顔を見ていたので、「殺すしかない」と尾形は考え、車で3人を連れまわした末、首を絞めて、包丁を突き刺します。偶然ですが、うち2人はすぐに発見されたため、命は助かっています。

一審で尾形の国選弁護人を務めた山本宜成によると、事件直後、尾形は「信じてもらえないかもしれないけれど、反省という言葉しかない」と言っていました。裁判中でも、尾形は被害者や遺族への謝罪と反省の言葉を口にしていますし、死刑についても素直に受け入れると繰り返していました。それにもかかわらず、裁判後、尾形は「死刑になるから、もう反省しない!」と開き直っています。なぜでしょうか。

次の記事に続きます。