未来社会の道しるべ

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根拠に基づく政策立案(EBPM)

ついに内閣府のHPにも証拠に基づく政策立案(Evidence Based Policy Making)という言葉が載ることになりました。日本の政治ではこれまで個別の観念や経験を元に不毛な議論を無数に繰り返してきました。これからの日本は、いくつもの価値ある統計がネット上に公表されていくでしょう。それらの統計を元に正しいか間違っているか判断できる(反証可能性のある)政策が立案され、事後に統計が出され、チェックされ、次回に政策を修正できる(CAPDサイクルを回せる)ようになっていくはずです。

2019年1月26日の朝日新聞のEBPMについての記事には、中室牧子氏が次のような例を述べています。かつてアメリカでは、受刑者たちに少年少女の犯罪防止教育を行わせていました。私は子どもの頃に「世界まる見え! テレビ特捜部」でそれを観たことがあり、その効果に不安を感じていました。私の不安は的中したようで、統計的に調べてみて、受刑者たちに教育を受けた少年少女は、そうでない少年少女より、犯罪率が高かったそうです。記事には「理由は分からない」と書いてありますが、理由などいくつも見つけられるはずです。頭の悪い奴が「俺みたいにならないように勉強しろ」と言っても説得力がないように、犯罪者が「俺みたいに悪いことせずに真面目にしろ」と言っても説得力はないでしょう。もっとも、受刑者たちに教育を受けた少年少女の犯罪率が下がる理由もいくらでも見つけられるのは事実です。ここで重要なのは「理由はともかく、統計的事実としてそうなった」ことです。「〇〇だから、その政策は間違っている」「いや、××だから、この政策が正しい」といくら理由を考えて議論しても、時間のムダになることは少なくありません。西洋式討論術にも書いたように、意見(理由)の正誤は判定できないので、正誤を決めるのは(優劣を決めるのは)事実になります。

中室牧子氏は「学力の経済学」という著書があり、これは私が読んだ100冊以上の教育本の中でも最高級に質の高い本です。「はじめに」で「子どもはご褒美で釣ってもよい」「ほめ育てをしてはいけない」「ゲームをしても暴力的にならない」と、断定できないことを断定しており、読む気を失くすかもしれませんが、全部読めば、(それらが断定できないことも含めて)なぜそう書いているかは理解できると思います。

「少人数学級にすべきかどうかの議論が観念論で何十年もされているが、少人数学級にした費用対効果が小さいという統計的事実はあまり考慮されていない」

「日本では全ての教員に教育研修を行い、莫大な公費も使われているが、最近の研究では教育研修が教員の質に因果関係はない、という結論が優勢である」

子ども手当のような補助筋は子どもの学力向上に因果効果を持たなかった。ただし、少人数学級は貧困世帯の子どもには効果が特に大きかった」

以上の指摘は、注目に値するはずです。

中室牧子氏はその本の中で何度も「日本では教育に関する(教育に限らないと思いますが)統計がほとんど存在せず、公表もされていない」と嘆いています。南アフリカ政府は、労働力調査や家系調査などの政府統計を全てインターネット上で公開しています。その理由は「データをネット上に公表すれば、論文のネタが欲しい世界中の優秀な学者たちがこぞって分析してくれるので、分析費用の節約になるから」だそうです。日本もこれを見習うべきでしょう。