未来社会の道しるべ

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子育てなしなら年金ゼロ

前回までの記事の続きです。

「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」(山田昌弘著、光文社新書)は日本の少子化対策の失敗原因の本質を解説している素晴らしい本です。しかし、残念ながら「では、どうすればいいのか」についてはほとんど書かれていません。

興味深いのは「そもそも少子化対策をすべきなのか」という考察があることです。「子どもを持つ、持たないは個人の問題なので、国家が干渉すべきでない」「少子化も人口減少も問題ではない」という主張は、日本にも確実に存在します。1990年頃まで、日本は少子化あるいは未婚化について、公的な対策をほとんど打っておらず、税金もあまり使っていませでした。それから30年間、おそらく何兆円もの予算が少子化対策、未婚化対策に使われたのでしょうが、全く解決していません。「どうせムダだから、少子化対策に税金を使うな」という批判もあっていいでしょう。

有効な少子化対策の提案の前に、これだけは書いておきたいです。「少子化対策など不要」と主張する人たちは、将来、現状の経済生活を維持できなくなる覚悟はできているのでしょうか。現在の日本は世界史上最高の高齢者天国になっていますが、このまま少子化が続けば、現状の介護保険は絶対に維持できません。私は日本の医療制度は世界最高だと考えていますが、それも維持できません。どこかの記事にも書きましたが、「少子化対策は不要」と主張する人には、医療も介護も全額自費にさせるべきだ、と私は考えます。

「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」の著者は次の2つの少子化対策を提案しています。

1 全ての若者に子育てしながらも10年後、20年後、30年後に世間並みの生活を保障する

2 日本人のリスク回避思考、世間体重視を変える

漠然としていて、具体的になにをすればいいか、よく分かりません。

このブログで何度も述べている通り、日本の最大の政治・経済・社会問題は少子高齢化だと私は考えているので、少子化対策も5年前に私は「未婚税と少子税と子ども補助金」と提案しています。ただし、日本社会をより大局的に考えれば、「年功序列賃金制度を解体しないと日本の夜明けはない」にも書いたように、子育て世代の福祉を充実させ、高齢者世代の給付を減らし、高齢者世代から税金を取ることが重要でしょう。

まず、高齢者に集中している資産に対する税は必要でしょう。預金、株式などの有価証券への課税です。資産税は、タックスヘイブンや土地建物の税(固定資産税)も考慮しないと意味がなく、それを解決するためにどうすればいいか、金融知識の乏しい私には分かりませんが、少子化対策を度外視しても、日本だけでなく、世界中の全ての国で、この世の不公平を軽減するため、資産税は必要であると私は確信します。

さらに、既に十分資産や収入のある高齢者の給付を制限します。もちろん、医療費を1割から2割に値上げするような微々たる改革では、焼け石に水なので、高資産あるいは高収入の高齢者の医療費を全額自己負担にするくらいの改革を断行します。

一方、子育て世代の福祉の充実として、現在の介護保険をやめて、その財源を子育て保険にあてることを提案します。子育て保険は、まさに異次元の少子化対策であり、次の記事で解説します。

また、「公務員を中高年限定採用にする改革」にも書いたように、子育てしていない者は公務員から排除する改革も行っていいでしょう。

さらに、子育てした人数によって老後の年金が変わってくる改革は十分に考慮に値するはずです。現在の日本の年金は、現役の勤労者が同時期を生きる高齢者に所得を分ける制度です。勤労者が預けてきたお金を老後に受け取る制度ではありません。その理屈からいえば、子育てしなかった者は、その人の老後を支えてくれる勤労者を一人も生まなかったわけですから、年金をもらう権利はないはずです。同時に、子育てした者たちは、その人数に応じて、年金をもらっていいはずです。

現実には、子育てに失敗して、勤労者どころか犯罪者を育てた親もいて、多人数の子を持つ家庭環境は悲惨な場合が多いので、単純に子の人数に応じて年金を与えるのは妥当ではありません。そもそも、子どもの人数に応じて、親の年金が決まるなら、公的制度にせずに、老後は自身の子どもたちから救済してもらう私的制度にすべきです。そういった制度の欠陥は無視できないものの、子どもの人数に応じて、年金が決まる制度は、考慮には値するはずです。

特に、子育て人数に応じてではなく、子育てしたかしないかで分別する年金制度改革は考慮すべきだと私は考えます。政府も「異次元の少子化対策」として、「子育てなしなら年金ゼロ」改革はぜひ提案してほしかったです。超少子超高齢社会になった日本で、このような年金改革が議論すらされていないのは、私にとって不思議ですらあります。1千万円以上の貯金を持つ高齢者世帯が日本に4割以上もいる統計事実もありますし、収入も資産もない高齢者は生活保護に入れる制度が日本だと整っているので、子育てなしなら年金ゼロの改革はあっていいと私は考えます。