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日本の犯罪報道は警察が作っている

「子どもを車内に置き去りにして、亡くなる事件なんて昔からいっぱいあったのに、なぜ最近になってニュースになっているの?」

妻に質問されました。犯罪報道に限らず、これは日本の報道の本質を突く質問で、全ての日本人がこの答えを知っておくべきです。実際は、知らない人が大半なので、煽情的な犯罪報道で無知蒙昧な大衆が世論を作ってしまいます。

車内置き去り幼児死亡事件は、大衆車が普及してから一貫して日本中で発生し続けています。ニュースにならないだけで、高度経済成長期から現在まで、毎年、毎月、あるいは毎週、日本のどこかで発生していたに違いありません。悪質な主婦のパチンコ中の車内置き去り幼児死亡事件は、20年ほど前からニュースになっていましたが、そうではないケアレスミスによる車内置き去り幼児死亡事件は発生しているのに、ニュースになりませんでした。なぜでしょうか。

その理由はタイトル通り、「日本の犯罪報道は警察が作っている」からです。犯罪報道に限らず、マスコミ報道は全て公的機関が作っています。共犯者は記者クラブです。

記者クラブは日本の大手公的機関(財務省、外務省などの中央省庁、東京都庁、神奈川県庁などの地方自治体など)にほぼ全てに存在しています。大手公的機関の全ての発表は、記者クラブの場を通して報道されます。記者クラブに所属しない記者は、記者クラブの場(≒公式発表の場)に入ることすら許されません。記者クラブは中央省庁なら朝日新聞、読売新聞、毎日新聞日経新聞産経新聞共同通信時事通信NHK日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日テレビ東京くらいに限定されます。地方自治体なら、これらに各地方の新聞社、放送局が加わります。文藝春秋の記者、講談社の記者、タイムズなどの海外記者、フリーの記者は大手公的機関の発表を直接聞くことはできません。

日本だと大手新聞社の一面トップや大手放送局の最初のニュースが揃うことが珍しくありません。ひどい場合には、使っている写真や映像、解説や表現方法まで一致してしまいます。これは同じ記者クラブで同じ発表を同時に全ての大手マスコミの記者が聞いているためです。

記者クラブでは、必然的に、公的機関とマスコミの癒着が発生しています。ほぼ全ての大手公的機関は記者クラブ専用の部屋を公費で造ってあげており、維持費も公費です。いろいろな事情で大手公的機関が報道規制を敷くこともありますが、その真相を記者クラブの記者たちだけには非公開で説明しているのに、「オフレコ」という名目で大手マスコミが真相を知っていながら報道しないことも珍しくありません。

記者クラブは日本の公的情報の独占機関です。ネットメディアが一般になって、アメリカなどで大手新聞社が経営危機に陥っているのに、なぜ日本の大手新聞社は大きなリストラもせずに生き残っているのか、という疑問はよく言われますが、その大きな理由、あるいは最大の理由に記者クラブ制度があることは間違いありません。海外ではネットメディアの記者でも既存の大手マスコミの記者と対等に公的機関の発表の場に入ることができますが、日本で公的機関の発表の場(≒記者クラブ)に入れるのは日本の大手新聞社と大手テレビ局の記者だけで、ネットメディアの記者など入口から覗くことすら許されません。日本の大手公的機関の発表は、ネットメディアであろうと、大手マスコミを介して(≒記者クラブを介して)でしか入手できません。

話を犯罪報道に戻します。大手マスコミが全ての犯罪情報を独自に入手しているわけではありません。古今東西、犯罪情報が集まるのは警察になります。だから、犯罪情報を手に入れたいマスコミ各社は、各都道府県にある警察署の記者クラブに毎日、出入りします。警察署の記者クラブで発表される犯罪情報だけが、大手マスコミに流れます。逆に言えば、警察署の記者クラブで発表されなければ、大手マスコミは犯罪の存在すら把握できません。マスコミで報道されなければ、一般人は犯罪を知る方法がありません。

日本で殺人で亡くなる者は毎年250人ほどいますが、それらが全て報道されていれば、日本の新聞記事やテレビ報道はほぼ毎日新しい殺人事件を扱わなければならないはずですが、現実にはそうなっていません。ほとんどの殺人事件は報道すらろくにされていないのです。殺人以外にも上記の車内置き去り幼児死亡事件など、注目すべきだった重大事件は日本に無数にあったのですが、マスコミ報道されることはありませんでした。

たとえば、日本で最も大量に犯罪を起こすヤクザ関係の犯罪情報は、殺人事件も含めて、ほとんど報道されません。警察が記者クラブで全く発表していないか、軽く発表しているかのどちらかのためでしょう。殺人事件でも、複数殺人でもなければ、大抵は報道されません。

1名の殺人事件なのになぜ大手マスコミが一斉に報道したのか、殺人事件でもないのになぜ社会面トップで報道しているのかについて、どのマスコミも説明していません。上記の車内置き去り乳児死亡事件が朝日新聞の社会面トップで報道されたのは、去年から、バス置き去り園児死亡事件が注目されるようになったからだ、と推測できます。しかし、他の多くの犯罪報道については、「なぜこの犯罪だけ大きく報道されているのか」について私にも推測できないことが多いです。もちろん、県警が記者クラブで大きく発表したからに違いないのですが、「他にも殺人事件はあるのに、なぜこの殺人事件だけ」といった本質的な疑問があります。

マスコミのあるべき姿として、「介護殺人は日本で毎年〇件発生しているが、この介護殺人だけ警察が大きく発表する理由が不明である。その理由を記者会見で質問したが、明確な答えは得られなかった」という報道もしなければならないのですが、そんな報道を見たり聞いたりした記憶はありません。ほとんどのマスコミ報道は、ただの公的機関の拡声器の役割しか果たしていません。上の例でいえば、「介護殺人は日本で〇件発生している」という情報すらろくに提供せず、感情的な報道ばかりすることが少なくありません。こんな犯罪報道で作られる世論に価値などないことは、十分認識すべきでしょう。