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技能実習生はなぜ莫大な渡航費を払っているのか

多くの外国人技能実習生は70万円~100万円という莫大な渡航費を払って、日本に来ます。日本への航空券代はその10分の1程度なのに、他の費用は一体どうして生じているのでしょうか。それについて調べあげた貴重な本が「ルポ技能実習生」(澤田晃宏著、ちくま新書)です。なお、この本は、現在日本で最多の技能実習生であるベトナム人に取材しているので、これまでの記事でも、これからの記事でも特に断りなく、ベトナムの話ばかりになっています。

タイトルの問に一言で答えるなら「中間搾取されているから」になります。ただし、この中間搾取費用には、日本語習得費などの妥当な費用も入っているので、一概にムダとも言い切れません。

日本では、受入企業が外国人の技能実習生を雇う時、監理団体を通さねばなりません。「ルポニッポン絶望工場」(出井康博著、講談社+α文庫)を元に、「外国人実習生からピンハネする官僚たち」に監理団体の腐敗を大げさに書きましたが、誤解を生むような内容もあります。たとえば、「実習生への日本語教育が名ばかり」というのは間違いと言ってよく、多くのベトナム人は次の記事「ベトナムの日本語および職業訓練センター」に書くように、日本の99%の学校よりも厳しい軍隊式教育を数百時間も受けています。

監理団体はNPO法人に限られ、2020年で日本に約3千団体も存在するそうです。監理団体は技能実習生が不当に扱われないか定期的にチェックして、技能実習生からの相談に真摯に対応する義務があります。しかし、「監理団体にとって技能実習生の受入企業はお客様です。すべての監理団体にあてはまる訳ではありませんが、かりに実習生の職場環境が劣悪だと気づいても、お客を失う怖さから企業側に立つケースが往々にあります。そもそも監理団体職員一人で数百人の実習生を監理するケースもあり、十分な対応をする余裕はありません」という状況のようです。とはいえ、監理団体は実習生一人あたり月3万~5万円も受入企業から受け取っているのですから、職員一人で数百人対応しなければならないのなら、その監理団体の運営方法が間違っている証拠になります。

渡航費の話に戻ります。法令で上限と定められた43万円しかベトナム人技能実習生に請求しない監理団体もあるのは事実ですが、「日本の監理団体が10社あれば、そのうち8社」は不当な料金を徴収しているのが現状です。

日本側に監理団体という中間搾取者がいるように、外国側にも「送り出し機関」という中間搾取者がいます。全ての外国人はこの送り出し機関を通じて、日本の受入企業に技能実習生として採用されます。送り出し機関は日本の行政側の呼び方で、ベトナムでは海外労働者向け人材派遣会社と呼ばれます。日本の監理団体がNPOであるのに対し、送り出し機関は民間企業です。2020年でベトナムには政府認定された353社の送り出し機関があるそうです。

送り出し機関が監理団体に賄賂を渡しているため、ベトナム人技能実習生の渡航費が高くなっています。単純な賄賂もありますが、「同じ日本人として恥ずかしい(と著者が書く)」ナイトクラブで女性をはびこらせ飲んでいる接待営業まであります。ベトナムで売春は非合法なのですが、ベトナム政府公認の売春クラブでの接待を喜んで受けたがる監理会社や受入企業の日本人を見て、「技能実習生に関わる日本人は『程度が低い』んですよ。日本人が嫌いになりました」というベトナム人の言葉が本には載っています。

このような売春婦やホステスによる接待営業は、中国人がベトナムに持ち込んだそうです。10年ほど前、技能実習生で中国人が最も多かった時、女性をあてがった接待営業が日本人に有効だったようです。中国の経済発展により、中国人の技能実習生が少なくなると、中国人が裏からベトナム人を操り、同じ営業方法をベトナムで行わせたようです。特に受入企業が建設業界の場合、この因習は根強いと本には書いています。

ただし、朝日新聞には以下のような記事が載っていました。中国人犯人説は、ベトナム人が日本人記者に使ったおべっかの可能性が高いと思います。実際、上記の本には、ベトナム人を操る黒幕の中国人は一人も出てきません。朝日新聞の日本人犯人説が実態に近いと私は考えます。

監理団体への賄賂は、当然違法なので、現金を手渡ししているようです。その賄賂の受け手は、理事長などの一部幹部に限られます。監理団体職員全体が賄賂を享受しているわけではありません。ある送り出し機関の幹部は元実習生であり、こんなことを著者に言ったそうです。「日本人は真面目で誠実な人が多いと思っていて、実際そうだった。だけど、送り出しに関わって、こんなクソみたいな日本人がいるのかと失望した」
当たり前ですが、こんな悪徳監理団体と取引したい人など、普通なら、ベトナムにも他の国にもいません。しかし、賄賂の要求を拒否すると、「送り出し機関は一つでない」と監理団体から求人票が回ってこなくなります。求人票がなければ、送り出し機関はなにもできません。「送り出し機関と監理団体には歴然とした力の差がある」と本には書いています。
日本に失望してしまう情報ばかり書いてきましたが、希望もあります。「新しい技能実習制度以降にできた監理団体は賄賂などを求めないところが大半です。そんなお金は要らないから、実習生の負担を軽くしてほしいと言ってきます。ベトナムの送り出し機関は『そんな監理団体はあるはずがない』と信じない人が多いですが、少しずつ理解が広がってきます」と本には書いています。
悪徳監理団体が自然淘汰され、より多くのベトナム人が日本に適正料金で来て、日本を好きになることを切に願っています。