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児童虐待防止法の通告制度は空文化している

17才の少年が祖父母を殺害した川口高齢夫婦殺害事件では、日本の親権が強すぎるために起きた悲劇です。

少年の母はお金があると、ホストクラブやゲームセンターで必ず散財します。お金がなくなると、「お前のせいで金がなくなった」と息子を責めて、息子を通じて親戚相手にお金をせびらせるので(息子は祖母の姉から500万円相当もせびっている)、当然、ほぼ全ての親戚から拒絶されるようになりました。息子は小学校5年頃から義務教育すら受けさせられておらず、元ホストの義父から暴力を日常的に振るわれていました。金銭奪取目的で、息子に祖父母を殺させたのも母の指示です(母は裁判で否定したが、息子の裁判でこれが事実と認定される)。

責めを負うべきは実行犯の息子よりも、息子を劣悪な環境で育てた母であることに異論を挟む人はいないでしょう。事実、母は「犯罪事実の責任は息子より重い。後悔の念はうかがえず、規範意識が鈍磨している」と裁判でも批判され、懲役4年6ヶ月の刑が確定しています。しかし、母より責任が軽いはずの息子は懲役15年と母より重い罰を受けています。

事件後、息子に対する虐待(ネグレクト)が明らかなので、なぜ福祉の手が入らなかったのかに注目が集まりました。

「誰もボクを見ていない」(山寺香著、ポプラ文庫)によると、息子が小学校2年生の頃から、母はホストクラブに通い詰め、借金を何度も踏み倒しています。自宅ではホストたちが複数人居候し、母の友だちの風俗嬢たちが卑猥な会話をしていました。息子が学校に行かなくなったのも、母がゲームセンターに息子を連れていったりして、息子の生活リズムがおかしくなったからです。息子が無断欠席するようになると、学校の先生が自宅まで行って、母と金銭トラブルになった男が押しかけてきて玄関のチェーンを壊して入って、警察が来ているところに出くわしています。

この時点で、誰がどう考えても、こんな家庭で子育てすべきではありません。しかし、先生はこの件を児童相談所に通告しませんでした。少し調べてもらえれば分かりますが、この時は2004年の児童虐待防止法の改正後です。つまり、「児童虐待を受けた児童」だけではなく、「児童虐待を受けたと思われる児童」でも発見すれば、通告義務が発生することになっており、特に学校関係者はより早期発見に努めなければいけない、と法律に明文化された後です。だから、この先生は児童虐待法に違反をしているはずですが、先生が法的に罰せられないのはもちろん、「誰もボクを見ていない」の著者は先生を自宅まで何度も息子を迎えに行った「善意」の教師と書いています。「家庭環境に問題はあったが、少年はクラスに馴染んでおり、登校しない理由が分からない」と能天気なことを言う先生を目の前にして、著者は上記の法律違反について触れもせず、「信じられない現場を見たんですよね。どんなにいい学校環境でも全て覆すくらい家庭環境に問題があるとは考えられなかったんですか? あなたはそんな想像力もないのに教師をしているんですか?」という質問もしないままだったようです。

なお、この時、この先生が児童相談所に通告しなかった理由は判然としませんが、しても無駄だった可能性が高いことは、「誰もボクを見ていない」の続きを読んでいけば分かります。数年後、客観的に遥かに悲惨な状況になった時点でも、児童相談所は息子を救えていなかったからです。

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