未来社会の道しるべ

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「ルポ児童相談所」を読んで

「ルポ児童相談所」(大久保真紀著、朝日新書)は素晴らしい本でした。これこそ朝日新聞記者がするべき報道です。「マザコン国家ニッポン」で私が批判した朝日新聞Eduはお受験冊子ではなく、こういった恵まれない子どもたちをテーマにした教育冊子にすべきでしょう。

児童相談所は、ほとんどの日本人が関わったことのない機関だと思います。医療職である私ですら、一度も関わったことがありません。新聞などで、虐待相談件数が2000年から2020年までで11.5倍、虐待摘発件数も10倍近くと、発展途上国人口爆発を上回る速度で増えていることを知るくらいです。

もちろん、世の中が豊かになって、少子化になっているのに、児童虐待が増えているわけがありません。昔の方が児童虐待は数も率も多く、程度もひどかったのですが、見逃されていたことは誰もが認めるはずです。

上記の本を読めば、児童相談所は社会にいかに必要か、その職員の仕事がいかに大変であるか、よく分かります。職員の仕事が大変なのは、本で何度も指摘されている通り、職員数が少ないことも原因ですが、制度の問題もあります。たとえば、子どもを一時保護しても、虐待した親の機嫌を損ねないように職員は対応しなければなりません。大抵のケースで、結局、子どもは親元に戻ることになるからです。子どもを助けるためには、親との協力が必要な制度になっているのです。

しかし、モンスターになった親にここまで真摯に対応していたら、ワーカー(社会福祉士)たちの心がもたない、というシーンが本で頻出します。極端なケースばかり紹介しているからだとしても、これはひどすぎます。「怒鳴るのなら、今日はお帰りください」「先ほどから同じ話ばかりしています。申し訳ありませんが、他の仕事もあるので、今日はお帰りください」と言える権限を職員に持たせるべきでしょう。児童相談所に限りませんが、親や客がモンスターと化した場合、具体的には怒鳴ったり、無理難題を言ってきたりする場合には、話を一方的に打ち切れて、すぐに対処が必要ならクレームを言われた方がその場で対処を決められる権限を認めるべきでしょう(もちろん、それが妥当かどうかについて不服申請および事後検証できる制度も必要になりますが)。

本で何度も指摘されている、一時保護所にいる子どもたちが学校に通えない制度は、即刻、修正しなければなりません。著者は15年以上も前から指摘しているのに、未だに実現していないようです。「親が学校に乗り込んできたら、学校側が対応に困る」「登校途中に子どもが虐待した親にさらわれるかもしれない」などと心配しているのかもしれませんが、「学校が親に子どもを渡さない」「親から再び子どもを保護して、親を留置場に送る」などと適切に対応すればいいだけです。無条件で子どもを勉強させない方がデメリットだといいかげん気づくべきです。というより、10年以上前に気づいて、制度変更しておかなければなりませんでした。

上記の本で私にとって興味深かったのは、2013年から2016年、名古屋市副市長として子どもの虐待問題に関わっていた岩城弁護士の話です。

「一時保護する場合、一時保護所ではなく、中学校区ごとのグループホームで保護して、親への接近禁止命令をとる形にして、地域で子どもを育てなければいけない」

これは私の「子ども集団生活施設」ほど急進的ではありませんが、似たような発想です。親によって子どもの人生がメチャクチャにならないように、その子どもが大人になって周りに迷惑をかけないように、上記のようなグループホームは、たとえ税金がかかっても、作るべきだと私は考えます。もっとも、それが日本で実現するのは何年後、何十年後、あるいは百年後になるかもしれない、とも思います。