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光市母子殺害事件の原因は犯人が父から虐待を受けていたからなのか

光市母子殺害事件の犯人である福田孝行が父から暴力を受けていたことは、どの本にも書かれています。福田の死刑を長年訴えてきた遺族の本村でさえ、福田の幼少期の育て方に問題があったことを認めています。「なぜ僕は『悪魔』と呼ばれた少年を助けようとしたのか」(今枝仁著、扶桑社)に至っては、それこそが福田の倫理観が歪んだ根本原因であり、それがためにこの悲惨な事件が起こってしまったかのような書き方です。以下は、その本からの引用です。

 

福田の父は結婚前から母に暴力を振るっていました。また、父は給料を賭け事に使い、サラ金から借金することも福田が小さい頃からあったようです。母は実家からお金をもらって、福田の子育てをしていたようです。福田が2才になり、福田の弟が生まれた頃には、母は「夫の暴力がひどいので、別れたい」と実家に訴えていました。

福田が小学校に上がる前、父の執拗な暴力から母を守ろうと間に入ったところ、父は福田を足蹴にして、頭部を冷蔵庫の角に打ちつけ、2日間くらい「ボーっとしていた」と福田は記憶しています。この時、福田は病院にも連れていってもらっていません。父が虐待の発覚をおそれたためだろう、と福田は考えています。

母を守る福田への父の暴力はその後も続き、ついには福田自身に対する嫌悪や怒りで、父は福田に直接暴力を加えるようになっていきます。福田が小学校3~4年の頃、父に頭を押さえつけられ浴槽に浸けられており、これは福田の幼少時の恐怖体験として記憶されています。

父に殴られて、左耳の鼓膜が破れて、福田は耳が聞こえなくなりました。このときは病院に連れていってもらって治療を受けられましたが、毎回、父が病院に着いてきて、いつも側にいるので、「僕を監視して、自分の暴力が病院に発覚しないようにしたのだ」と福田は思っています。後の話になりますが、光市母子殺害事件について弁護人や鑑定人が福田の継母(母の自殺後に父はフィリピン人と再婚している)に話を何度か聞きに行きましたが、父は自身の立ちあいなしで継母から事情を聴くことを絶対に許そうとしませんでした。

母は父からの暴力に耐えかねて、3回ほど子どもたちを連れて、佐賀の実家に逃げ帰っています。しかし、祖父も祖母に暴力を振るうことがあり、実家でも福田ら親子3人を受け入れることは難しかったようです。結局、その都度、父が迎えに来て、むなしく光市に連れ戻されています。

母は次第に精神を病み、精神安定剤睡眠薬を常用するようになります。夫から十分なお金を家に入れてもらえないので、パートで生活費を稼ぎ、さらに節約して、子どもそれぞれに100万円の貯金をしていたそうです。福田が中1の頃、子ども2人とスーパーに行った母が米を万引きする事件が起きます。父もこれはよく覚えており、「なんで米なんか盗んだのか、分からない」と言っています。

母はこの頃、何度も自殺未遂をしていました。福田が2回、弟が2回、首吊りを止めています。母方の祖母は「自殺のマネするくらいなら、本当に死んでみたら、と夫から言われた」と母から聞いたそうです。

福田が中1の9月、母が自宅のガレージで首つり自殺します。福田は二重の意味で「お父さんがお母さんを殺した」と今でも思っています。「暴力や暴言で母を追いつめ、自殺に追いやった」という意味と、「本当は(第一発見者の)父が母を自分の手で殺したのではないか」という疑念です。

 

以上が今枝の記述です。父が母に日常的に暴力を振るっていたこと、父が福田にも暴力を振るっていたことは、父でさえ認めているので、間違いないでしょう。ただし、母が父から虐待を受けていたことは事実でも、福田本人が父から「虐待」を受けていたとは私は考えていません。

今枝の記述だけだと、福田は父をずっと憎んでいたとしか思えませんが、それは事実と異なります。「福田君を殺して何になる」(増田美智子著、インシデンツ)で、次に示すように、福田は父への好意を述べて、父を擁護する発言ばかりしています。

 

「実は、僕は父とすごく仲が悪いんだけど(8年間で5回しか面会していない)、やっぱり会いたいよね」

「僕はお母さんのこと大好きだったけど、一般的に考えて父と母では、母の方が変なところが多かったよ。すごくおっちょこちょいな人で。だから父がそれに対して怒るのも分かる。だからって殴るのは絶対ダメだけど。僕は父も母も大好きだったんだよ。物心ついたとき、父と母がケンカをしていれば、やっぱり好きな人同士だから、仲よくしてほしくて止めに入りますよね。で、どちらかといえば体格的に劣っている母をかばった。それから僕と母が殴られるようになりました」

「父が暴力をふるう原因は、だいたい僕が母をかばって、それで僕も怒られるという感じ。だから、何か原因があってということはほとんどなかったと思う(前文と矛盾)。父はすごく嫉妬深い人で、母が隠し事をしていたりすると殴るんだよ。僕は、その当時は父に理があると思いながら母をかばっていた。今思えば、母も隠し事をしたかったわけじゃなくて、言いたくても言えなかったんだと思う。長年の暴力で、言いたくても言えない、だけど言わなきゃ、という状態にさせてしまったんだと思う。しかも、父はこちらから話し出すのを待ってくれる人ではなかった」

「でも、父も殴ってばかりじゃない。優しい父もいたんだよ。だから、僕も切っちゃうことができない」

 

今枝の本によると、「母の死が福田くんの心とその成長に与えた影響は極めて甚大かつ深刻だ」となっていますが、増田の本によると、母が自殺した時、先生もクラスメートも、福田本人はケロッとしていたという証言で一致しています。「おばあちゃんがお母さんをいじめたから自殺しちゃった」と福田が笑いながら言って、(それ笑えないよ)とクラスメートが思ったという証言さえあります。

確かに、増田の本でも福田は「父が母を殺したかもしれないと思っている」と述べていますが、上記のように自殺当時は「おばあちゃんがお母さんをいじめたから」と言っているくらいなので、本当に昔から父の母殺害疑惑を持っていたのか疑問です。福田の不謹慎な手紙が出てくるまでは、裁判では父の暴力性が強調され、「このような育て方をされたので、福田の倫理観が歪んだのは仕方ない。福田に情状酌量の余地はある」と弁護側は主張していました。この過程で、「父が母を殺したかもしれない」と福田が母自殺当時から疑っていた、という架空の物語を弁護人が作り上げ、福田に信じ込ませた可能性もあるように思います。福田と25回面会した増田によると、福田は人の影響を非常に受けやすく、福田の発言に矛盾を感じることはたくさんあったそうです。

福田の成績は小学校から一貫して悪く、高校も公立に入れず、私立に通います。運動もできなかったようで、給食にも時間がかかっていました。言動もおかしなところがあり、特別に仲のいい友だちもおらず、いつも周りから笑いをとろうとしていました。明らかないじめられっ子タイプでしたが、先生やヤンキーからは守ってもらえたようで、イジメは受けなかったようです。

福田が殺人事件を起こした時、福田を知っていた者はほぼ全員、父も含めて「あいつが殺人を?」と驚いたそうです。また、福田の不謹慎な手紙が報道された時も、「福田がこんなことを考えていたのか!」とショックを受けたようです。「福田がこんなことするんなら、世の中の誰がやってもおかしくない」という中学・高校の同級生の証言もあります。一方で、「考え方が人とずれていた。だから、事件を起こした時も『なんか、分かるような気がする』と思いました」という小・中学校の同級生の証言もあります。

あまり知られていないようですが、福田の暴力性は、生涯でただ一度、光市母子殺害事件の時だけに生じたわけではありません。母の自殺後、福田は動物を虐待していました。

「猫を押さえつけたり、火を点けたりした。飼っていた犬をけしかけて、幼稚園のアヒルを死なせたことがある」「隣のお姉さんが可愛がっていた猫をエサでおびき寄せて、火を点けたり、重りをつけたり、蹴とばしたり、高い所から落としたりした」「犬をエアガンで撃った」

動物虐待で暴力性を強めなければ、福田が光市母子殺害事件を起こさなかった可能性は高いでしょう。また、福田がなぜ動物虐待を始めたかといえば、父の母に対する日常的な暴力を見ていたことが大きいでしょう。

だから、福田の犯罪の原因に父の暴力、父の育て方があったことは間違いない、と私も考えます。しかし、福田の倫理観が歪んだ原因は全て父にあり、犯罪の原因も全て父にある、という考えには反対です。情報が少ないので根拠は薄くなりますが、父以外の人、母や祖母の育て方にも問題があったと私は推測するからです。

たとえば、増田の本にはこんな証言が載っています。

「おばあちゃんがちょっと甘やかしていましたね。一緒にゲームしていた時、ゲームは順番にやるから、福田がプレイしていないときもあるじゃないですか。そういう時に、『なんで孝行(福田のこと)にやらせんのか。いじめとる』みたいなことを言われた記憶がありますね。そんなことで怒られるのは嫌だから、だんだん、福田の家には行かなくなりました」

福田が小学5~6年の時の担任の証言です。

「お母さんとの繋がりがすごく強い子だとは感じていました。家庭訪問に行ったときも、お母さんのそばから離れないで、お母さんと僕の話をじっと聞いていました。ちょっと親離れができていないか、もしくは親が子離れできていないのかなと思いました」

どうも母や祖母は福田を甘やかしていたようです。父は福田に暴力を振るい、躾も厳しかったようですが、母や祖母が福田を甘やかしていたので、全体としてはバランスのとれた教育だった可能性があります。父が福田に厳しくしていなかったら、福田はもっと悪人になっていたかもしれません。

福田が父から暴力を受けていたことは事実でも、父から虐待を受けていたと私が考えない理由はそんなところにあります。もし福田が父から虐待を受けていたなら、父を憎むはずですが、増田の本の面会記録を読むと、父を憎むどころか、父を好きだとまで言っています。また、福田が父から虐待を受けていたなら、福田は不幸な少年時代を送っているに違いありませんが、福田の発言から、福田が不幸な少年時代を送ってきたとは、とても思えません。秋葉原通り魔事件の加藤や、黒子のバスケ事件の渡邊などは、言葉の端々から、不幸な少年時代を送ってきたことが嫌というほど分かりますが、福田の言葉からは、そんなものは全く感じられません。むしろ、幸せな少年時代を送っていたようにも思えます。

福田の犯罪原因を全て父の育て方にすることに反対する他の理由は、福田自身の医学的欠陥です。福田が1才の頃、母が階段から誤って落としてしまい、顔半分が腫れてしまいました。当時の病院での診断では異常なしでしたが、犯罪後に「幼少時の頭部打撲のエピソードと、ひきつけや高熱のエピソードがあったこと、片目が外を向く斜視の症状があることから、脳の器質的な脆弱性があるのではないか。医学的な検証が望ましい」という記録が取られています。しかし、医学的な検証は現在まで行われていません。

生まれつきなのか、1才の頃の頭部打撲のせいなのか、熱性けいれんのせいなのか不明ですが、福田の知能が低く、精神年齢が極端に低いことは、衆目の一致するところです。

増田の本の冒頭は、福田からのこんな手紙です。なお、この時点で増田は福田と全く面識がなく、福田は半月前に死刑判決を受けたばかりです。

「増田美智子様 孝行です。1981年3月16日生 魚座 とり年 つまりペンギン(福田のペンギンイラストあり)←こんな感じかな☆ なわけないか ぼく27才だよ。こんなのでもいいかなー。心配してくれてありがと。外でデートとかしたかったね♡ なんて言ってみてもいい? けっこうこわいです。くじけそう。ふるえる日もあるよ。抱かれてねむりたいもん。それはそーと、面会たのしみにしてるよ。あけとくから。でもお金かかるじゃん。どうしようか。美智子さん 広島に知人、友人いる? いなかったら、僕の方でがんばってみるよ。とまる所とか。今は事件のことはふれることはできないけど(ごめんね)。これ以上他の人の心をキズつけたくないもの。でも、ぼくのこれまでの歩み、個人的なことならはなせるかもです。それでもいいかな?(いっぱいエピソードあるんだよ☆☆) 僕もみっちゃんのこと知りたいなー。今日はお手紙のお礼までに。ありがとね 美智子さん。今日はゆっくりねむれそうです。次も書くね♡」

これが本当に、殺人・強姦致死当で死刑判決を受けたばかりの被告人なのかと増田は首をかしげました。増田は福田と同学年ですが、とても同い年の青年が書いたものとは思えませんでした。福田は幼稚すぎて反省する能力が備わっていないのではないか、と増田が考えたのはもっともでしょう。

福田の知性が低く、精神能力はもっと低く、その原因は環境(育てられ方)の他に、医学的要因(脳の器質的要因)によっても生じていた、と私も考えます。しかし、「反省する能力が備わっていない」というのは、言い過ぎだと断言します。増田自身も認めているように、また上告後の弁護団の全員が認めているように、福田は不十分ながらも内省を深めています。「知的能力が低くても感情能力が高い人たちはいます」にも書きましたが、福田に限らず、反省できない人などいません。

知性が低いから、福田が反省できないと私は考えません。福田が反省できないのは、むしろ、それまで十分に恵まれた人生を送ってきたからではないでしょうか。具体的には、能力もなく、努力もせず、倫理観に問題があっても、母や祖母や先生やクラスメートから好かれてきたことが原因だと推測します。

誰にとっても本当に反省することは、容易なことではありません。反省とは自己批判あるいは自己否定なので、「自分はこれでいい」と思っている人、いわゆる自己肯定感が強い人は、原則、できません。福田は能力が低く、意思の弱い、どうしようもない奴ですが、少年時代、それを矯正しようと努力した形跡がありません。本来、子どもの頃から反省を何度も強要されるべきなのに、強要されなかったことこそ、福田が十分に反省できない最大の原因だと私は考えます。そして、福田の内省能力の乏しさは、犯罪の原因の一つだったはずです。

そんな観点からするなら、福田の犯罪は、父の暴力によって生じた面もあったでしょうが、父の厳しい躾によって抑制されていた面もあったと私は考えます。

まとまりのない内容になってしまいました。乏しい情報源で推測の域を出ませんが、福田の犯罪の原因をあえて私が数値化するなら、以下のようになります。

父:20~40%

父以外の環境要因(家族や学校や地域社会や時代):5~40%

福田の生物的要因:2~30%

福田の自由意思(福田の責任):30~73%

この推測を元に「光市母子殺害事件はどうすれば防げたのか」についても考察します。これまでの犯罪記事と同じ答えですが、「家庭支援相談員」がいれば福田の父の問題は解決されうるので、一つの予防策にはなったでしょう。ただし、家庭支援相談員がいても、福田は動物虐待について相談するはずがないので、確実に予防できたとは思えません。ある程度の確率で、こんな凶悪犯罪は起こってしまう、と私は考えます。

次の記事で、福田の女性観について考察します。