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「人口減が地方を強くする」は「地方創生大全」よりも読むべきである

「人口減が地方を強くする」(藤波匠著、日経プレミアシリーズ)は名著でした。間違ったことはなに一つ書かれていないのではないでしょうか。なにかと批判的な私がそう思ってしまうほど、的を射た意見しか載っていません。

タイトルから「地方で成功した稀な事業を紹介する本」ではないかと思っていました。しかし、「地方創生大全」(木下斉著、東洋経済新報社)でも認める通り、そんな事業は他でマネしてもまず上手くいきませんし、「人口減が地方を強くする」にある通り、地方創生事業が成功している稀な地域でも人口減はほとんど止まっていません。

「人口減が地方を強くする」で興味深い事実は、1999年に10年以内に消滅すると予想された集落のうち、2006年までの7年間で消滅した集落は14.6%で、2006年に10年以内に消滅すると予想された集落のうち、2010年までの4年間で消滅していた集落は8.3%だったことです。本では集落は案外「しぶとい」と表現しています。限界集落が消滅する心配よりも、新規集落がどんどんできていることを心配すべきだと書いています。「なぜ日本はコンパクトシティの都市計画で50年間も失敗続きなのか」に書いたような理由で消滅集落の10倍も多く新規集落が誕生しているようです。ネット社会、ドローン社会の到来により、コンパクトシティだけを目指す弊害は指摘しているものの、水道、ガス、電気などのインフラ維持費用の問題から、「住宅のバラ立ち」は「人口減が地方を強くする」でも批判されています。

「人口減が地方を強くする」を読んでいても強く感じるのは、日本の改革の遅さの弊害でしょう。

「道路と交通の予算を一本化」するという主張が本にあります。全国には3.8万系統のバス路線があり、うち2.8万が赤字路線で、うち1.7万系統が公的補助を受けておらず、絶えず廃止・減便の危機にさらされています。この2.8万系統の赤字総額は2700億円であり、1系統あたりにすると1000万円なので、およそ運転手の人件費+αのようです。一方で、日本の道路需要は2003年度以降、頭打ち状態なのに、道路新設のために毎年4兆円も使っています。道路新設の一部をバス路線の維持・拡充に組み替えるべきでしょう。それに、若い世代を中心に自動車離れが進んでおり、バスや自転車の必要性が高まるので、環境問題のためにもBRTレーンや自転車専用道を作るべきです。

こう書いた後、「このようなことをわざわざ取り上げる必要があるでしょうか」と著者は嘆いています。道路と交通が不可分であることは論をまたないのに、未だに縦割り行政のせいで予算が一本化されていない、と呆れています。道路や交通の予算は財源も含めて一本化して国から地方に譲渡し、地方が予算を道路にのみ配分し、バスを走らせなかったとしても、それは地方の責任であると割り切ったらどうか、と極論を示してまで批判しています。

交通政策に限りませんが、令和になったのに、日本はいまだ昭和の亡霊に憑りつかれたままです。その理由について次の記事で簡潔に示します。