未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

自己紹介と期待する配慮事項カード

前回までの記事の続きです。

企業などから「聴覚障害者はわからないことを恥ずかしがらない。悪びれずに『知らない』と言う。失敗しても『知らなかった』と言うだけで、真剣に謝罪しないので、周囲から批判的にみられることがある」との批判を脇中は聞いたそうです。ろう学校では「分からないことは恥ずかしいことではない」とよく言っていることと関係するのでしょう。他にも企業は「上下関係をわきまえず、ため口をきく聴覚障害者が多い」「大きな失敗をしても、軽く『すみません』ですませる」「筆談しても内容が理解されない」「本人に望む配慮事項をたずねてもはっきりした返事がない」などの不満があるようです。一方、聴覚障害者からは「筆談をお願いしたら、嫌な顔をされたり、文章の間違いを笑われたりした」「手話通訳を頼んでも、配置されない」「職場で自分の障害を説明しても、すぐに人が変わる」などの不満があるようです。

これらの解決策として、脇中は「自己紹介と期待する配慮事項」というチラシの配布を提案しています。たとえば、下記のようなことは書いた方がいいようです。

・自分の障害の程度(何dB、何級だけでなく、もっと具体的に)

・どんな音節が聞き取りにくいか(『イ・シ・ヒ』が混同しやすいなど)

・補聴器はどこまで有効か(言葉として聞き取れないなど)

・声の質によって聞き取りやすさが変わる場合、どんな声が聞こえやすいか(高音部が聞こえにくいので、女性の声が聞き取りにくいことがある、など)

・場所によって理解しやすさが変わる場合、どんな位置や席が理解しやすいか(聴覚障害者の目の前に来てもらって口を少し大きく動かして話す、右耳の聴力が良いので右側で話す、前から2番目の窓側の席がよい、など)

・どんな状況なら電話に出られるのか(家族と電話しているのを見て、『職場でも電話に出てほしい』と言われる例がよくあるが、電話での聞き間違いがトラブルに発展し、職場にいづらくなって退社した例がある)

・どんな言い方が理解しやすいか(「ベンチ」が通じなかったら、座るなどと別の言葉をつけ加える。身振りや表情をつける、など)

・会話でどうしても通じなかった場合、どんな方法を望むか

・筆談ならどんな内容を望むのか(文章の間違いを笑われた例があるので、「自分は文章の間違いが多いが、努力しますので、ご指導をよろしくお願いします」と伝えるなど)

・そのほか、仲良くしたいという気持ちが伝わるようなメッセージ(「自分はスポーツが好きなので、スポーツをする時は誘ってください」など)

この「自己紹介と期待する配慮事項」のチラシは、聴覚障害者以外でも使うべきだと思います。実際、新人看護師全員にこのようなチラシを作らせて、ナースステーションの壁に貼っている病院を私は知っています。

どんな人でも完ぺきではありません。自分の長所と短所を知って、適切な方法で周囲の人に説明する能力は、全ての人にとって重要です。こういった自己紹介カード文化が広まることを期待します。かりに私だったら、次のような「期待する配慮事項」を作るでしょうか。

・道徳を重視しすぎるため、キツイ言い方になることがあります。ただし、言いすぎたと思ったら、後で謝るようにしているので、私のお詫びを受け入れてくれるとありがたいです。

・他人にあまり関心がありませんが、その分、必要以上に他人に深入りすることはありません。裏で陰口を言うこともありませんし、誰かの悪口に加わることもありません。

・私は秘密を厳守します。私が秘密とお願いした内容も、秘密厳守してくれると助かります。

・今は子育てのことで頭がいっぱいです。また、もともと私は睡眠障害があり、それを遺伝させたのか、子どももよく夜中に起きるので、夜中にあまり寝られていません。このことで、いろいろ迷惑をかけると思います。本当に申し訳ありません。

・ABRでも判明するくらいの軽い難聴があります。特に高い声は聞こえづらく、小声になると、まず聞こえません。何度か聞き返すことがあるかもしれません。申し訳ありません。

・趣味は教養本の読書です。「なんでこんな本を読んでいるのだろう」とよく思われています。その本に興味があったら、話しかけてみてください。ウマがあえば、3時間でも深く広く話し続けられます。