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性格は医療で治らない

しばしば誤解されていることですが、人格障害(パーソナリティ障害)は病気かどうか明確でありません。確かに、人格障害の診断基準はあり、病名は公式に使えて、精神療法の保険適応にはなっています。しかし、精神医学では「本当に病気なのか」「医療で対応すべき問題なのか」と昔から議論があります。

人格障害とは、換言すれば、性格の問題です。頭を良くする薬がないように、性格を良くする薬はありません(あったら、私が使いたいです)。人格障害には、どんな薬も効きませんし、保険適応されている薬もありません。

では、どうやって人格障害を治すかというと、精神療法、つまりカウンセリングになります。しかし、カウンセリングですぐに治ることはまずありません。長期間かけて、やっと治ることはありますが、それだと本当にカウンセリングで治ったのか、それ以外の要因で治ったのか、よく分かりません。「心理士の仕事は社会福祉士がするべきである」に書くように、そもそもカウンセリングはあまり科学的な治療法ではありません。

人格障害で、最も手に負えないのは反社会性人格障害サイコパス)です。反社会性人格障害の人は問題行動を起こすと、大抵、警察沙汰になるので、医療よりも警察が対応してくれます。医療現場の実感としては、最も手に負えない人格障害境界性パーソナリティ障害です。ほとんどが女性の疾患で、犯罪まではいかない問題行動を何度も起こします。「相手(主には恋人や家族)に過剰な要望を出すわりに、相手から見捨てられそうになると、異常なほどの執着心で相手との関係を繋ぎとめようとする人」です。境界性人格障害の人は周囲を巻き込むので、その人が原因で家庭崩壊することも少なくありません。だから、「なんとかしてほしい」と思って、境界性人格障害の人を精神病院に連れてくる家族はいますが、薬剤が効かないので、「とりあえず大人しくなったら退院させて、また犯罪にはならない問題行動をして再入院する」を繰り返すことになります。境界性人格障害で精神病院に10回以上入院した人は、日本に1万人はいるでしょう。人格障害の治療を担当して、無力感に苛まれる精神科医は少なくありません。「リストカットは精神病の症状ではないはず」「大量服薬してしまう病気なんて医学書のどこにも載っていない」という愚痴が出てくるのも当然です。

私も人格障害は医療で担当すべきではない、と考えています。精神病院ではなく、適切な隔離施設で好ましい生活習慣を身に着けてもらった方が遥かに効果的であり、再発も防げるはずです。人格障害は薬で治らないので、その施設に医師が常駐する必要はありませんが、高齢者施設のように、訪問診療する医師は必要になるでしょう。なんにせよ、医療者よりも遥かに重要な人材は、入所者の社会復帰を手助けする人たちになります。家事や仕事やレクリエーションを管理・指導する「教員」の他、心理面のサポートを行い、家族との窓口となり、社会復帰の筋道を提案できる「社会福祉士」も必要になります。特に、社会福祉士は、隔離施設退所後も、数年間、定期的に家庭に訪問して、問題なく過ごせているか調べて、場合によっては強制的に施設入所させる権限を持たせるべきです。

精神病院ではなく、上記のような施設での対応が適切なのは、依存症や拒食症にも言えることです。なお、拒食症は「頭の中は食事のことばかりである」「頭で分かっていてもなかなか止められない」「他人が止めさせようとすると、本人は天才的な言い訳を考え出す」ので、依存症に含めるべきだと私は考えています。

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