未来社会の道しるべ

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パワハラするくらいなら金を払ってクビにすべきである

「さっさと僕をクビにしてくださいよ」

私がブラック企業で働いているとき、理解のある上司に何度も言った言葉です。「会社都合退職なら自己都合退職より失業給付の条件がいいから」といった知識が当時の私にあったからではなく、「怒鳴らないといけないほど俺がダメなら、クビにすればいいだろう!」という気持ちからのただの愚痴です。ただし、愚痴ではあっても、本心からの言葉です。今思い出しても、クビにしてほしかったと思います。

日本では、職場の要求水準を満たさない人へのパワハラが広く行われています。大抵、その要求水準は給与から考えると不合理に高いのですが、それは今回無視します。ともかく、上司が期待するほどの質の仕事ができない場合、部下は罵声を浴びせられます。

「意欲を出させ、根性を鍛えるためだ」「要求水準を満たしていないのだから、怒るのは当然だ」「怒鳴られたくないのなら、質の高い仕事をするか、辞めるか、どっちかにすればいい」 そんな理由で、上司たちはパワハラしているのでしょう。残念なことに、「いじめ問題の教訓をパワハラ撲滅に活かすべきである」にも書いたとおり、そんなパワハラを容認する労働者が、日本には少なくありません。しかし、「パワハラ撲滅がもたらす経済効果」に示したように、パワハラは多くの日本人を労働市場から弾き出し、結果としてパワハラ上司やパワハラ容認労働者にとっても大局的に考えて損失になっているはずです。

そうはいっても、パワハラなしで、怒ることなしで、質の高い仕事ができるよう根気よく労働者たちを教育していくことが、空虚な理想論であることは私も知っています。ほとんどの企業は、ダメな労働者たちを教育していく時間的・金銭的余裕などないでしょう。かといって、簡単に解雇すると法律違反になるので、パワハラが行われます。

だから、ここで提案します。パワハラを行うくらいなら金を払ってクビにすればいいのです。解雇時に払われる金額は、解雇される労働者のそれまでの貢献度から、1ヶ月から1年先までの給与分になります。たとえ1日しか働いていないバイトであっても、次の日から来てほしくなければ1ヶ月分の給与を払う義務が生じます(1ヶ月未満の雇用条件なら期間満了までの給与全額を一括で払う)。また、30年1日も休まず勤続してくれた労働者であっても、1年分の給与を払えば、問答無用で解雇できます。

日本で労働者を合法的に解雇しようとすれば、まず、新規採用をやめ、他の社員も含めた残業を削減し、賞与を下げ、給与も減らし、定期昇給までやめて、さらに、その労働者に改善指導を十分な期間行って、それでも業績が改善しない場合に、ようやく最終手段として解雇が認められます(ただし、就業規則や雇用条件によってはより緩い条件で解雇は可能です)。これは厳しすぎるでしょう。十分な手切れ金を払ってもらえれば、使用者の責任で自由に解雇できる方が合理的なはずです。安易に解雇すれば、使用者も損失を被るのですから、それで十分でしょう。

なお、1日でクビにしたくなったバイトを解雇するだけでも、1ヶ月分の給与を払うのは不合理だと判断する人もいるかもしれませんが、それくらいの採用責任は使用者にあると私は考えます。

日本でこれほどパワハラが蔓延した理由はいろいろあるでしょうが、その一つに解雇条件の厳しさがあると思います。まともな社会人が怒鳴ったりするのは異常です。怒るくらいなら、金払って縁を切らせた方が社会的に健全です。

そのような金銭的解雇が一般的になれば、ろくに仕事していないのに給与をもらっている「窓際」も日本特有の「追い出し部屋」も消滅していくに違いありません。