未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

韓国の大学英語講義の失敗

あてにならない世界大学ランキング」や「グローバル30で唖然とした英語教員の質」に書いたように、現在、日本は大学での英語教育を推進させています。「英語公用都市を実現させた韓国」や「韓国の英語教育熱」に書いたように、日本より遥かに英語教育熱が高い韓国では、日本よりも早く2000年から、日本よりも熱心に大学の英語化を行いましたが、上手くいきませんでした。このことを知っている日本人はどれほどいるでしょうか。

2019年時点で、全体の講義数のうち、英語で行われる講義の割合は、最難関のソウル大学でわずか10%です。ソウル所在の13校の4年生大学の平均では、英語の講義比率が約20%と低調で、しかも10年前に比べて減少しています。

「韓国社会の現在」(春木育美著、中公新書)で紹介されている延世大学工科学部の研究に、英語の講義が減少した理由が示されています。

韓国語と比較して英語での授業では、学生側で2.6倍の学習時間を要求し、教師側で2倍の労力と時間を要求します。そんな労力をかけているにもかかわらず、学生の満足度は低く、教師側も十分な講義ができたと考える程度は低くなります。英語で授業を進めることが「講義内容の理解を妨げている」という意見は8割を越えます。

韓国では大学教授の8~9割が海外で学位を取得して、英語で博士論文を執筆した教員が大部分を占めます。平均的な日本の大学教授よりも英語に堪能な韓国の大学教授でさえ、英語での講義は、同じ内容を韓国語で話した場合の7割程度しか伝えられず、深みのある講義ができないようです。

概念的な話や高度で専門的な内容になるほど、英語でかみ砕いて説明することが難しく、韓国語で聞いても分からない内容をネイティブでもない教員から英語で聞くので、理解度は低下します。結果、名目上は英語授業のはずが、先に英語で説明してから、同じ内容を韓国語で繰り返すことが少なくないようです。

日本同様、英語による講義を増やす目的の大きな一つは、留学生の多様化と英語圏の学生を誘致することにありました。現実には、韓国の留学生の9割はアジア人であり、その7割は中国とベトナムです。英語に秀でるアジア圏の学生は、当たり前ですが、英語圏の国に留学します。英語が苦手であるため留学先に韓国を選択した学生も少なくなく、特に最多の中国人はその傾向が強いので、むしろ英語での講義を避ける傾向にあります。このような状況なので、英語の講義が増えるほど、韓国語も英語も中途半端にしかできない留学生が増え、学業不振に陥っています。

繰り返しますが、韓国は2000年頃から大学の英語化を日本以上に熱心に取り組んできて、上記の延世大学の研究は2010年に行われています。つまり、2010年頃には韓国での失敗が明らかになってきているのに、同じ頃に日本は国際化拠点整備事業(グローバル30)を実施し、「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上をランクインさせる」などの目標を掲げているのです。この政策に関わった政治家全員と文科省の役人全員に韓国の大学英語化の失敗を知っていたか聞きたいです。いえ、むしろ、聞くべきです。今からでも、英語教育政策に関わる文科省全員に聞いてください。