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韓国と日本のIT社会の絶望的な差

「韓国社会の現在」(春木育美著、中公新書)からの引用です。

韓国では住民登録番号(日本のマイナンバーにあたる)を通じて、生年月日、性別、出生地、顔写真、10本の指紋、家族構成、行政サービス、納税、医療、銀行、教育、福祉、出入国管理、クレジットカード利用歴(!)など、個人のあらゆる記録を紐づけしています。

より具体的に説明します。医療に関しては、出生してから現在までの予防接種歴、受信歴、入院歴、処方歴、健診歴が全て記録されています。母子手帳を紛失して予防接種歴が分からない、3年前に風邪でクリニックにかかったがなんの薬をもらったかは分からない、という日本ではよくある状況は、韓国にいる限り、ありません。加入している公的保険の種類、これまでの医療費の情報も登録されているので、韓国ではクリニック受診時に保険証は不要で、住民登録証(日本のマイナンバーカード)さえ不要で、住民登録番号さえ覚えていれば足ります。出入国管理の情報まであるので、新型コロナウイルスの感染経路の特定にも有益です。

教育に関しては、出身学校、入学年、卒業年、出欠日数、成績表まで記録しています。住民登録番号さえあれば、成績証明書や卒業証明書を自宅のパソコンから母校に24時間請求でき、母校もネットを介して証明書のデータを送付してくれます。日本のように、わざわざ手紙でやりとりして、紙として出力するような手間はありません。

特筆すべきは銀行やクレジットカード利用歴と繋がっていることです。2016年の日本のキャッシュレス決済は19.8%と先進国最低と言えるのに、韓国のキャッシュレス決済は96.4%と先進国最高です。つまり、韓国の96.4%の金銭取引は政府が把握できているのです。以前にも書いたように、キャッシュレス化は、貨幣や紙幣の印刷代が不要になり、現金レジやATM機器が不要になり、個人から団体まで現金輸送が不要になり、脱税が難しくなります(脱税方法を知らない大部分の一般庶民にとって恩恵が大きくなります)。

韓国がキャッシュレス化を強力に推進したのは1997年以降で、年間クレジットカード利用率が年収の4分の1を越えた分に関して、課税所得を20%(上限300万ウォン)控除する政策を打ち出します。後に控除率は15%に下がりましたが、それでも節税対策として、クレジットカードが一気に普及しました。

住民登録番号さえあれば、過去1年間の買い物履歴を全て確認できます。さらには、給与所得や給与以外の所得、世帯構成員の所得、源泉徴収額、医療費などの公的費用も全て記録されているので、確定申告の手間がかかりません(!)。

引っ越しの際は、自宅のパソコンから転入届のページに新住所を入力して申請すれば、あとは転出元と転入先の職員が行政情報共同利用システムを用い、手続きを済ませてくれます。引っ越しに伴い住所変更届が必要な運転免許証、国民健康保険国民年金、子どもの転校手続きなども自動処理されます(!)。

相続や死亡の申請もネットで完結します。パスポートの申請も、住民登録証を見せれば、あとは写真を撮って手数料を払えば完了します。

日本にこの制度を導入すれば、1年あたり、役人の人件費は何億円、何兆円節約できて、国民全体の無駄な申請労力時間は何万時間、何億時間削減されるのでしょうか。大手マスコミは今すぐ計算して、トップで報道すべきです。

韓国では、がん検診の督促メールを政府が個人に届けてくれます。さらに、健康保険審査評価院という機構が、保険外での処方や過大請求、過度な治療行為など、治療費の払い過ぎを自動的にチェックしてくれて、患者個人に直接連絡して、払い戻しをしてくれます。税金についても同様で、過払いがあれば、自動的にチェックしてくれ、納税者がなんの手続きもしなくても、銀行口座に払い戻しをしてくれます。

いつの間に日本はこんな残念な国になったのか」でも書いたように、中国は監視カメラの活用で世界最先端を疾走しています。比較サイトComparitechによれば、人口千人あたりの監視カメラの台数は、中国の都市が1位373台で、2位~5位のインド各都市の63~25台を突き放しています。韓国のソウルは人口千人あたり7.8台で10位にも入っていませんが、監視カメラの設置に特別交付税を配分して、急ピッチで普及させています。新型コロナ感染者が発生するたびに、感染者が訪れた店舗や施設などの移動ルートは携帯端末の位置情報、クレジットカードの利用履歴、カーナビのデータ、監視カメラの映像記録などによって割り出されました。

ソウル市の市長室には、巨大なデジタルダッシュボードが設置されており、市内の交通状況、大気汚染、災害、事故、犯罪、物価、不動産価格、予算執行状況まで、ありとあらゆる情報がリアルタイムで表示されます。驚くべきは、同じ内容がホームページを通じて、市民にも公開されていることです。バスが停留所に到着する時間はもちろん、座席の空き状況までスマホ画面にリアルタイムで表示できます。災害や事故にあったり、帰宅途中に危険を感じたりしたときなどに、緊急救助を要請すると、最寄りの管制センターに自動的に自分の位置情報と現場写真や動画が転送されます。管制センターには警察が常駐して、必要に応じて警察官が急行します。

光州市では、音声や映像を分析するソフトでスクリーニングをかけ、悲鳴や不自然な動き、火災などの温度変化を自動感知し、アラートがかかれば各地域の管制センターに常駐する警察官と職員が映像を確認し、パトカーや消防署や救急車を現場に急行させます。

民間でも、深夜まで塾通いする子どもが往復ルートから外れると現在地の写真や地図を親に連絡するシステム、タクシー内のチップにスマホをタッチすると乗車したタクシーの情報や現在地を登録した連絡先に自動で知らせるサービスもあります。

IT後進国の日本にいれば、まるでSF世界のように思えますが、すぐ隣の韓国で数年前から実現している話です。

私は以前、「日本が世界最高のAI国家になる方法」で、日本人の全ての金銭情報と位置情報をネット公開すれば、日本は世界最高のIT国家になれると断定しました。韓国はさすがに金銭情報や位置情報のネット公開まではしていませんが、政府はネット上でほぼ全ての金銭情報を把握できているようです。

彼我の差に失望の念を禁じえません。