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あてにならない世界大学ランキング

世の中には簡単に比較できないものが多くあります。人数、面積などは客観性がまだありますが、売上や給与などになると統計基準によって結果が変わってきます。同じような理由で、国家の経済規模を示すGDP(GNPやGNIも同様)にも、問題があることは以前から指摘されています※。

もっとも、これらは通常、数値で表されるのでまだ比較しやすいでしょう。「教育力」「生徒たちの頭の良さ」「学術業績の高さ」になると、基本的に数値で表されないので、客観的な比較が給与やGDPよりも圧倒的に難しいことは間違いありません。「そんなものにランキングなどつけられない」と考える人も必ず一定割合いて、それが正しい側面も必ず存在します。

だから、「世界大学ランキング」はおかしいと批判される宿命を負っています。まして、世界大学ランキングでは不自然なほど英語圏の大学ばかり上位にいるので、「こんなくだらないランキングにこだわるべきでない」と非英語圏の国や大学は嘲笑すべきです。

しかし、2013年の日本の内閣府教育再生実行会議の第三次提言で「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上をランクインさせる」という目標が掲げられてしまいました。そんな国家目標を立てるなら、「どの世界大学ランキングの上位を目指すのか」「その世界大学ランキングの評価は妥当なのか」を検討しなければならないはずなのですが、その検討をした形跡は見当たりません。

「オックスフォードからの警鐘」(苅谷剛彦著、中公新書ラクレ)は、世界大学ランキングがイギリスのために作られたことを証明している本です。世界大学ランキングはここ30年ほどの歴史しかなく、大抵はイギリスで作られています。最も頻繁に引用されるTimes Higher Education(THE:タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)も、その例に漏れません。上記の本では、1999年のブレア首相の発言「教育・訓練の面でイギリスの海外輸出額は年間およそ80億ポンド(当時のレートで1兆5000億円)」を何度も引用しています。教育の海外輸出額とは意味不明な言葉ですが、「留学生などが国内外でイギリスに総額1兆5000億円もの教育費を支払ってくれている」という意味です。このブレア発言はさらに「今後、イギリスは海外留学先の第一の選択肢になるように長期的な戦略を立てることにした。2005年までに留学生を7万5千人増やす」と続きます。結果、THEの我田引水な大学ランキングを無批判に受け入れる低脳な外国人たち(主には中国人)はイギリスに引き寄せられ、2005年には目標を大幅に上回る11万8千人もの留学生増を達成したそうです。

イギリスは経済政策として留学生を積極的に受け入れており、その政策を熟知しているタイムズ社などがイギリスの大学のブランド力を高めるため、THEなどの大学ランキングを世界に積極的に広報してきました。本では、イギリスの国家マーケティング戦略に日本はまんまと巻き込まれていると指摘しています。

日本政府は上記の2013年の国家戦略に従って、大学ランキングで上位を目指すために、〇〇年までに留学生の割合を×%に増やすと日本の有名大学に目標を立てさせてしまいました。THEなどの大学ランキングでは必ず留学生の割合が評価基準に入っているからです。しかし、留学生の割合が評価基準に入っていれば、国際語になっている英語圏が有利になるのは当たり前です。「教育力を高める」「学生の質を高める」「学術業績を高める」ために留学生を増やすのなら分かりますが、「大学ランキングを高める」ために留学生を増やすのなら、くだらないです。そんな根本的な認識間違いを犯すほど、日本の文科省はバカだらけなのでしょうか。

学生の優秀さでいえば、受験戦争期の東京大学、改革開放政策後の清華大学、まだ大学数が少なかった頃のインド工科大学が、アメリカやイギリスの一流大学に勝っていた、あるいは勝っている、と私は考えています。しかし、THEなどの大学ランキングでは、上記の大学はアメリカやイギリスの多くの一流大学に負けています。その時点でおかしい、と考える人は私だけでなかったはずです。

世界大学ランキングが上記のようないいかげんなものであることは多くの日本人が知っておいていいでしょう。

 

※ あまり知られていないと思いますが、今から100年前は、GNPなどの国家の経済規模を示す客観的な数値はなかったようです。そのため、現在が好況なのか不況なのか、日本とアメリカの経済規模がどれほど違うのか、学者によって言うことが異なっていました。その意味で、GNPのような客観的な指標ができたのは社会全体にとって有益ではありました。