未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

「真説毛沢東」の衝撃

毛沢東の記事を書いたので、毛沢東の通説を根底から否定する一般書の「真説毛沢東」(ユン・チアン、ジョン・ハリディ著、講談社+α文庫)を読みました。「マオ誰も知らなかった毛沢東」(ユン・チアン、ジョン・ハリディ著、講談社)の文庫版です。

張作霖爆殺事件の黒幕はコミンテルンである、西安事件で張学良は国共合作ではなく中国の統治者になることを目的としていた、その張学良の目論見が破綻したのはスターリンの指示による、1937年からの盧溝橋事件が日中全面戦争まで発展したのは国民党所属の共産党スパイ張治中が上海の日本軍を勝手に攻撃したからである。

どれ一つとっても、世界史の教科書を書き換えなければならないほどの驚愕の事実です。これらが事実であれば、1920年代~1940年代の中国の激動期、中国を裏で意のままに操っていたのは、コミンテルンであり、共産党であり、スターリンであったことになります。確かに、ソ連コミンテルンは徹底した秘密主義で、しかも重要な記録の多くを意図的に抹消しました。結果、ソ連誕生から崩壊までの間、世界中の多くの重大事件に共産党の陰謀説が出現してしまい、しかもその真偽が判定できない、という未来永劫消えない罪を共産党は犯しました。

上記の多くの新解釈をとると、コミンテルンにまんまと騙されていた日本は間抜けということにもなりますが、日本の右翼、特にネトウヨにとっては歓迎すべき「事実」でしょう。「張作霖爆殺事件はやはり日本の謀略ではない」「日本は中国を侵略する気などなかったのに、ソ連によって日中戦争を始めさせられたのだ」「確かに戦前の日本は中国に嘘もついたし、残虐なところもあった。しかし、その後にあなた方が統治者に選んだ毛沢東はもっと嘘をついたし、もっと残虐だったではないか」といった言い訳が使えるからです。

他にも、「真説毛沢東」はこれまでの通説を根底から覆す新説をいくつも出しており、国共内戦での国民党軍指導者に共産党のスパイが多すぎる点など、私も読んでいて「いくらなんでも嘘くさい」と思うことは何度もありました。しかし、荒唐無稽と学会から無視されず、それどころか著名な歴史学者が何名も大真面目に批判しています。毛沢東の生涯をまるで見てきたように書ききっており、他のどの本よりも毛沢東を「理解」できてしまう面は注目すべきでしょう。

エドガー・スノーの「中国の赤い星」だけから毛沢東を理解するのは間違いなのと同様に、この本だけで毛沢東を理解したと考えるのは間違いです。ただし、「中国の赤い星」よりも「真説毛沢東」は毛沢東を遥かに深く広く理解できるので、「真説毛沢東」以上の毛沢東伝記はなかなか出てこないのではないでしょうか。