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朝鮮戦争の謎

どうして朝鮮戦争の開戦時にソ連は国連安全保障理事会で拒否権を行使しなかったのでしょうか。この疑問を考えた人は少なくないはずです。私に言わせれば、そう考えない人の方がおかしいです。

もしソ連が拒否権を行使していれば、国連軍が韓国を支援できませんでした。他国からの支援がなければ、北朝鮮が瞬時に韓国を破り、半島を統一していました。もちろん、安保理決議などなくても、なんらかの名目でアメリカが韓国を軍事援助していた可能性はあります。ただし、国連決議なしの派兵となると、イラク戦争同様、国内世論も国外世論もアメリカを批判するでしょうから(国連決議があった現実の歴史でさえ、朝鮮派兵はアメリカ国内で不満が多かった)、アメリカの北朝鮮攻撃は躊躇され、朝鮮戦争ベトナム戦争のように泥沼化していたかもしれません。まだスターリンも生きていましたから、最悪、朝鮮戦争が核戦争、つまり第三次世界大戦になっていたかもしれません。そうなると、日本を含めた世界の歴史は大きく変わったに違いありません。

冒頭の質問の答えとして「中国でなく台湾が安保理常任理事国であることにソ連は反対していて、安保理をボイコットしていたから」しか私は見かけたことがありません。この答えで納得できた人はいないでしょう。「ソ連は台湾の常任理事国入りも反対で、韓国への国連軍派兵も反対すればいいだけだ。安保理ボイコットまでする理由にはならない。ソ連安保理で拒否権さえ発動すれば、少なくとも国連軍は朝鮮戦争に関われなくなる。場合によっては朝鮮半島全体を容易に共産主義国家にできていた」と考えるはずです。

「国連軍が来なくても、どうせすぐアメリカ軍が来るから、結局は同じことだ」とスターリンは考えていたのだろうか、と私は長年、推測していました。

「真説毛沢東」(ユン・チアン、ジョン・ハリディ著、講談社+α文庫)によると、やはり世界中の国は、この時、ソ連が拒否権を発動するものだと予想していました。ソ連のマリク国連大使安保理の審議に戻る許可を出すよう、スターリンに要請していました。しかし、スターリンは拒否したようです。なぜでしょうか。

なんと、スターリンはこの時、アメリカ軍を朝鮮戦争に呼び寄せたかったみたいです。毛沢東も同じ考えでした。現在も当時も世界最強の軍事国家のアメリカが参戦すれば、朝鮮戦争は間違いなく北朝鮮に不利になるのに、どうしてスターリンはそんなことを望んだのでしょうか。

上記の書によると、スターリンには大きなメリットがあったようです。ソ連製兵器に依存している北朝鮮と中国に対して、アメリカがどのように戦争するかを見られることが一点です。また、スターリン以上に朝鮮戦争アメリカと戦いたがっている毛沢東は、莫大な中国の人的資源の力によって「数年かけて数十万のアメリカ人を殺し尽くす」つもりでした。スターリンの考える最高の計画は、消耗品としての中国兵の力により朝鮮半島アメリカを釘付けにしている間に、ソ連が西ヨーロッパ諸国を占領することでした。ソ連が西ヨーロッパ諸国に侵攻すれば、米ソ全面戦争は避けられませんが、スターリンはそうなる覚悟をしていたようです。スターリンはいずれ資本主義国家群と共産主義国家群の全面戦争は起こると予想していたので、資本主義国家側についている西ドイツと日本の二大軍事大国が動けない間に、全面戦争した方がいい、とも考えていたようです。アメリカがそのスターリンの考えを知っていたとなると、あれだけ日本に平和主義を要請していたGHQが、朝鮮戦争勃発後、手のひらを返して、日本に再軍備を求めたのも納得できてしまいます。

なお、「真説毛沢東」(ユン・チアン、ジョン・ハリディ著、講談社+α文庫)は陰謀論に満ちており、歴史学会で痛烈に批判されています。ただし、冒頭の質問に的確な答えを出してくれている稀な本なので、鵜呑みにしてしまう人は多いだろう、とも思ってしまいます。