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医療はゼロをプラスにする役割が苦手である

医療の基本ですが、専門職でもこの基本を認識していない人は多くいます。ほとんどの医療は病気を治すことに特化しています。医療はマイナスをゼロにすることは得意でも、ゼロをプラスにすることは苦手なのです。

その大きな理由は、健康の度合いを科学的に判定することが難しいからです。科学的にいえば、最も判定が容易なのは死です(脳死などの判定が難しい問題があったとしても、他と比較すれば、まだ容易です)。医療の一番の目的が死亡率を下げることにあるのは、白黒はっきりしているからでもあります。次に判定が容易なのは、病気の罹患率です。病気の定義は科学的に決められるので、これもそれほど難しくはありません。一方、健康の程度になると、現在に至るまで、定義は存在しません。強いていえば、あらゆる病気にかかっていない状態が健康ということになります。しかし、たとえば、最も病気の数が少ないBMI(体重㎏÷身長m÷身長m)は22なのに、最も長生きするBMIは25~30になっています。病気でないことが、健康とは限りません。

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なにをもって健康とするのかが明確でないので、健康のためになにをすればいいかも、医学的によく分かっていません。死亡率を下げる方法(禁煙するなど)、病気にかからない方法(予防接種を受けるなど)は分かっています。しかし、より健康になる方法は、どんな優秀な医者でも漠然としか答えられません。

ただし、「予防は治療に勝る」ことも医療の基本です。その記事にも書いたように、人間の健康がマイナスになって、治療でそれをゼロにしようとしても、完全にゼロに戻らないことはよくあります。癌の再発ように、またマイナスになりやすかったりもします。言ってしまえば、治療は敗戦処理のようなものです。だからこそ、敗戦前に対処する、マイナスにならないようにプラスを高める、健康度を高めることが重要です。それは間違いないのですが、科学的にどうすれば健康度を高められるか、多くは不明のため、予防は医療であまり扱われていません。日本の保険診療で予防が対象外になっているのも、こういった理由からでしょう。

この医療の基本は一般の方にも知っておいてほしいです。また、医療者なら十分に認識しなければならない、医学書にも最初に載せなければならない、と私は思います。