ほとんどの病気は早期に発見し、治療されれば、症状が小さくて済みます。早期発見早期治療が医療の基本なのは事実です。ただし、早期に発見できない病気もあれば、早期に発見できたとしても治療の副作用が大きく、治療すべきでない病気はいくらでもあります。現在の日本の公的検診にも、無駄があるのは科学的・統計的事実です。
代表的なのは胃がんのバリウム検査でしょう。「医者はバリウム検査など受けない」という記事を読んだことがありますが、まさにその通りです。私も医療職に就く前、会社の健康診断にバリウム検査が入っていたので、半強制的に受けさせられていましたが、今なら無料でも受けません。問題点はさまざまなところで指摘されているので、あえてここに科学的根拠は書きませんが、「バリウム検査利権」などという言葉が存在しているのは医療者として情けないです。
昨日の朝日新聞朝刊に、日本はがん検診に上限年齢がないことが問題視されていました。私の感想としては「まだこんな低レベルな問題が提起されているのか」になります。世界中どこでも、公費あるいは保険負担のがん検診には75才などの上限があります。それ以上の年齢でがんになったとしても、治療するしないにかかわらず余命は変わらないことなどが統計的に示されているからです。医療者にとっては常識ですが、がんを切除しても、手術により体力が低下して、余命が短くなることは決して珍しいことではありません。がんを発見しても手術したら術中死する可能性が高い場合もありますし、既に多臓器に転移して手術できない場合もあります。大して余命を伸ばさないのに、費用だけは高い抗がん剤を使うべきでない場合もあります。治療しても治療しなくても余命が変わらないのなら、がんを発見する意義もあまりありません。
もっとも、「あらゆるがん検診が無用だ」というつもりは全くありません。むしろ、日本では必要ながん検診については、受診率が低すぎます。特に乳がんと子宮頸がんの受診率の低さは、先進国の中でも際立っています。なぜアメリカなどでがん検診の受診率が高いかというと、検診を受けていないと、がんと診断されても、保険診療にならないからです。日本も受診率を上げたいのなら、こういった「罰則」を設けるべきでしょう。
余談になりますが、子宮頸がんの受診率を上げようと、子宮頸がんが毎年ほぼ公費で検診できる制度を作った自治体があり、この試みは完全な失敗になっています。子宮頸がんを受ける意義の少ない(が、健康意識だけは高い)高齢女性が毎年のように検診に来るのに、本当に来てほしい若年女性たちは検診に来ないままだからです。子宮頸がんは胃がんや肝がんと同様、感染症です。性感染症なので、性活動のない女性は子宮頸がんに通常なりません。それに、子宮頸がんは進行が遅いので、たとえ性活動の多い女性でも、3年に1度でいいとアメリカの予防医療サービス対策委員会は結論づけています。性活動の少ない(もしくはない)高齢女性が子宮頸がん検診を受ける意義は極めて小さく、まして毎年公費負担で受診させるなど、税金の無駄でしかありません。全てのがん検診には年齢上限を設けるべきですが、とりわけ子宮頸がん検診は設けるべきでしょう。