何年か前に書店で「長生きしたければ肉食をやめろ」という本の隣に「健康になりたければ肉食をしよう」という本を見つけたことがあります。どちらも正しくもあり、間違ってもいます。
日本の高齢者には5剤以上の薬を併用する方が過半数いますが、5剤以上の薬剤併用の医学研究はこの世に存在しません。相互作用があまりに複雑になり、個人差もあるので、適切な研究ができないからです。そもそも医学では、複数の病気を同時に診る発想が皆無に近く、いつも一つの主訴、一つの病気のみにこだわります。これは医学の致命的な欠点だと私は以前から思っていますが、それを指摘する医者はあまりいません。
人間のタンパク質は10万程度存在すると推定されています。そのほとんどの構造や機能は分かっていません。そして、人間はタンパク質以外にも、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、腸内細菌などで成り立っています。各物質の機能や役割が分かっていないので、それらの100万、100億、100兆の相互作用など、完全な謎に近いです。健康的な食事が科学的によく分かっていないからこそ、正反対の主張の本が堂々と並んで売られているわけです。
しかし、「食事について科学的になにも分かっていない」と断定するのも、間違いです。たとえば、人間が制御できるものの中で、健康の最大の要因は、やはり食事でしょう(制御できないものも含めると、遺伝でしょう)。健康に与える影響は、運動、ストレス、睡眠、喫煙、薬物、清潔度など、いろいろな要因はありますが、特定の個人ならともかく、世界全体、あるいは国全体で考えれば、食事が一番だと私はほぼ確信しています。その根拠として、私がよく使う資料が下になります。(見ての通り、これは健康ではなく、死亡に与える影響のグラフです。「医療はゼロをプラスにする役割が苦手である」に書いた通り、健康への影響の数値化は難しいので、より容易な死亡への影響を参考にしています)
これによると1番影響を与えているものは喫煙になりますが、2番以降の高血圧、高血糖、塩分の高摂取、アルコール摂取、高LDLコレステロールなどなどは、ほとんど食事によるものです。それらの影響度を全て合わせると、喫煙を軽く越えます。
洋の東西を問わず、「医食同源」「You are what you eat.」といった格言は昔から存在します。それは過去から現在まで、人類あるいは生物全体の真理を表しているはずだ、と私は考えています。