未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

富の不公平を失くすために

前回の記事に書いたように、金銭取引のネット上の完全公開が実現したら、現存する富の不公平のほとんどは解消可能なはずです。常識的に考えて、どんなに仕事の質が違うとしても、同じ社会で同じ時間働いて100倍の収入の差が出るのはおかしいです。現在の日本の4人家族なら、年収1千万でも普通に贅沢ができます。年収の格差は、たとえば300万円から9000万円までの30倍以内になるように税金を設定すべきでしょう。そのためには金融取引税、先行者利益税(現代社会では、先行した者が不公平に得をすることが多いので)などを新たに設定し、ザル法独占禁止法に変わる法律を新しく成立させるべきかもしれません。また、個人の総資産額も、たとえば9億円以内、最高年収の10倍以内までに抑制するように累進資産税などを設定すべきだと考えます。

もっとも、政治家や役人に莫大な税金の使い道を委ねるのは適切でないかもしれません。そうであるなら、蓄積した財産の使い道を個人のためではなく、社会のための投資(若者のベンチャービジネスへの投資など)に限定するものの、どの社会投資に使うかは、蓄積した本人の自由にする方法はあっていいかもしれません。当然、それが事実上個人(本人やその家族など)のために使われないよう、いくつかの規制は必要になります。

このような提案には「そんなに税金をかけたら勤労意欲が削がれる」との反論が出てきますが、そうならないように調整することは十分可能だと私は確信します。たとえば、「日本の医者はお金に無頓着である」で示した通り、日本の医師は給与よりも名誉を重んじています。どんな科でどんな働き方をしてもフルタイムであれば年収1千万円以上の収入があるなら、お金の心配などしない方が多数派だからです。給与のせいで医者の勤労意欲が下がったという話も、ほとんど聞きません(私に言わせれば、そんな人は即刻医者を辞めるべきです)。

また、「自由専門医制」や「診療報酬制度」に書いたように、日本では医者が自由に専門科を選べる独特の制度を取り入れていますが、不公平がないようにうまく調整されています。もちろん問題がないわけではありませんが、「福祉先進国・北欧は幻想である 」に示したように、最も重要な「世界最高水準の医療を国民に提供できている」のですから、政府の診療報酬改定(医師の給与にも影響を与える)により日本の医療は適切に運営できている、と思います。

もっとも医療は、事実上の公的部門で特殊です。医師に対する規制を全ての職種に当てはめるのは現実的でないでしょう。そうであるにしろ、勤労意欲を引き出す要素はお金以外にも間違いなくあります。普通に考えて、年収が毎年1億円もあったら、よほど不健全な浪費をしない限り、個人で使いきれません。それ以上の収入を求めているとしたら、個人のためでなく、他人のために使いたいからでしょう。より具体的には「人に愛されること、人にほめられること、人の役にたつこと、人から必要とされること」のために使いたいのだと推測します。これは名誉欲や虚栄心などと表現できるかもしれませんが、他人のためにお金を使って自分の幸せにつなげたいことは間違いないでしょう。だとしたら、個人で使いきれないほどの収入や資産があったなら、税金や上のような制度で社会に還元してもいいはずです。

社会全体で貧しい人がいなくなって、不幸な人もいなくなれば、富める人の幸福にも繋がります。そんな理想郷を完全に実現するのは不可能ですが、それに近づく努力はすべきです。