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一人あたりGDPを上げるために研究者人件費の公費支出を増やすべきである

「科学立国の危機」(豊田長康著、東洋経済新報社)は統計を元に、いくつもの相関関係を調べています。まず、論文数と一人あたりのGDPは正の相関、論文数と労働生産性は正の相関があることを示しています。

また、論文数は単純に大学研究者数(実際には総研究時間であるFTE)と正の相関があります。

だから、研究者数を増やせば論文数が増えて、論文数を増やせばGDPも増え、みんなが豊かになると主張しています。

では、どうやって研究者数を増やせばいいかについてですが、単純に研究者の人件費を増やせばいい、という結論を出しています。なぜなら、日本の研究者人件費は、先進国で最低レベルだからです。

具体的には、6000億円の研究者人件費を毎年公費負担することを提案しています。年収500万円なら、12万人も研究者を新たに雇用できます。実際は社会保障費などで追加負担もあるので、その半分程度になるかもしれませんが、それでも6万人です。

こちらによると、大学の研究者数は2021年のFTEで13.6万人なので1.44倍~1.88倍になる計算です。

毎年100兆に及ぶ予算をかけている日本で、6000億円くらいの研究予算の追加は十分考慮に値するでしょう。

本では、博士課程修了者と論文数の正の相関も示されているので、博士課程への予算も支出しましょう。それこそ授業料免除にして、月15万円程度の給与を与えたらどうでしょうか。2つ合わせても、年400万円程度のはずです。現在、日本の博士課程は7.5万人しかいないので、年3000億円です。もちろん、こんな好条件にしたら、博士課程に進学する者が一気に倍増するかもしれませんが、それでも6000億円です。博士課程修了者数とGDPに正の相関があることを考えれば、考慮には値するでしょう。

これは極端にしても、価値ある研究をしている博士課程の院生たち4万人くらいの授業料免除、うち1万人くらいの月15万円の給与、合計1000億円くらいの財政支援はすべきと考えます。日本全体としても、その支援額に見合うリターンはあるでしょう。

さらに、政府支出研究費は(政府歳出全体よりも)7年後の一人あたりのGDPと正の相関があると示しています。つまり、公的研究費支出は(他の公的支出よりも)将来のGDP成長に繋がっている可能性があると数学的には言えます。

本には、イノベーションGDPと正の相関関係があると示されており、大企業の研究開発費は一流だが、中小企業と大学の研究開発費は三流とも書かれています。特に日本の製造業において、国際比較で大企業は強いが、中小企業が弱いので、これもその通りだと考えてしまいます。

日本人全体が豊かになるため、研究、開発、改革、改善に中小企業と大学はもっと予算をかけるべきとの提案は傾聴に値するでしょう。

次の記事で、この本についての批判も書いておきます。