未来社会の道しるべ

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東日本大震災は誰も予知していなかったのか

2008年の世界金融危機の時、多くの人はこう考えました。

デリバティブなどの訳の分からない金融商品がのさばっていたから、巨大な経済バブルが発生した」

私も、ほぼ同意見です。サブプライムローンという住宅の借金を債権に変えるなど、誰でもおかしいとすぐ分かるのですが、あまりに複雑(≒デリバティブ)にされて、本質が隠されていたのです。

ウォール街の物理学者」(ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール著、早川書房)という本があります。単純にいえば、この本は2008年の世界金融危機の時に複雑化されすぎたデリバティブを生んだ数学者や物理学者批判に対して、100年以上の歴史を振り返り、数学者や物理学者がいかに金融業界に貢献してきたかを示しています。

この本の中で最も興味深かったのは第7章です。株価の暴落、雪崩、てんかん発作、労働者のストライキ地震、銀行の取り付け騒ぎ、政治革命など、多くの臨界現象には共通点があります。全て負荷がかかりつづけた結果として起こりますが、正確にいつ起きるかは誰にも分かりません。上記の中で、雪崩は比較的予測しやすいでしょうが、労働者のストライキは、個別の条件が違いすぎるので、予測は極めて難しいでしょう。それらに共通点もありますが、相違点もあるので、共通の数学で考えるのはどこかに無理があるはずですが、その臨界現象の理論を確立したディディエ・ソネットという物理学者は、1997年のアジア通貨危機を正確に予測し、株の空売りで儲けたそうです。

他にも、2008年の金融危機も正確に予測していた物理学者も紹介されています。つまり、「世の中の多くの数学が金融危機を予測できなかったのは事実だが、数学を駆使して金融危機を正確に予測していた物理学者もいる。だから、数学が悪いわけではない」と言いたいのでしょう。

興味深いのは、上記のソネットが1997年に空売りする前にこう考えていたことです。

「今、アジア通貨危機が起こると言っても誰も信用してくれないだろう。世の中で使われている分析手法では、どこにもおかしな動きはないからだ。しかし、発生後に言っても、やはり誰も信じてくれないだろう。何千人もの学者や投資家が危機を予測していたと言い張るからだ」

そのため、ソネットは株を空売りしただけでなく、アジア通貨危機が起こる予測を(なぜか)特許庁に送って、証拠としたそうです。

これを読んで思ったのは、「地震学をつくった男・大森房吉」(上山明博著、青土社)で、「日本地震学会は東日本大震災を全く予知できなかった」と断定されていることです。本当でしょうか。株価の暴落と同様、東日本大震災が2011年に起こることを予知していた地震学者も少しはいたのではないでしょうか。もし予知していた学者を知っていたら、下のコメント欄に証拠とともに書いてもらえると嬉しいです。

ところで、日本には大地震同様に、近いうちに必ず起こる災害として、国債デフォルトがあります。大地震国債デフォルトには共通点もありますが、重要な相違点もあります。それについて、次の記事で論じます。