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軍事小国ロシアとコンピュータ技術

フィンランドNATOに加盟するとのニュースに接して衝撃を受けました。あれほどロシアを怖がっていた国が、あれほどロシアを刺激しないように金も労力も使っていた国が、ロシアが心底嫌がっているNATO加盟をするとは。大げさな表現になりますが、驚天動地です。

その教育力の高さでも有名なフィンランドは日本と比較にならないほど深謀遠慮をはたらかせます。あらゆる面を全て熟考して、ロシアを刺激するデメリットより、NATO加盟にメリットがあると判断したからこその決断のはずです。情報が限られる中、その真意を読み取っている人はフィンランドの政治や軍事の上層部のごく一部でしょうが、普通に考えれば、ロシアが軍事的に弱い国であることが、フィンランドが恐れるほどでないことが、今回のウクライナ戦争で発覚したと判断できます。

少なくとも第二次世界大戦まで、ロシアは世界最強の陸軍大国でした。ほぼ全ヨーロッパを支配したナポレオンもヒトラーもロシアの陸軍に負けて、それが自身の没落の最大の要因になっていました。まさか、ウクライナごときにロシアがこれほど情けない戦いをするとは、プーチンだけでなく、世界中のほとんどの人は予想していなかったはずです。

NATOは冷戦期に生まれた対ロシア軍事同盟です。NATOの拡大は、ロシアにとって歓迎できるわけがありません。それなのに、よりにもよって、ロシアの兄弟国ともいえるウクライナNATO加盟させるなど、ロシアに戦争しかけてくれ、と言っているようなものです。今回の戦争を挑発したのはウクライナである、とのロシアの指摘は一理あると私は考えていました。NATOの拡大は世界最多の核保有国ロシアを刺激するデメリットが大きいので、他の西洋諸国がなぜ許すのかも、私には謎でした。

冷戦時代から、フィンランドNATOに正式に加盟していないものの、非公式には加盟しているような国でした。ロシアに攻められたら困るので刺激はしたくないが、本当に攻められたときは他の西洋諸国に守ってもらいたいのなら、その方法が一番得だからです。ロシアを刺激しないために、本心を隠して、ロシア寄りのメッセージをフィンランドの政治家が出すことも珍しくありませんでした。自国民に嫌われてでも、フィンランドの安全保障のために、ロシアの味方をするほど、フィンランドはロシアを恐れていました。

それでも、フィンランドNATOに加盟したのですから、ロシアはもはや陸軍でも海軍でも空軍でも核兵器でも、フィンランドを攻められないとフィンランドが判断したのでしょう。核ミサイルが飛んできても、フィンランド領で炸裂する前に迎撃できるのか、あるいは、そもそも核ミサイルをフィンランドに向けて発射できないようなコンピュータハッキングができるのか、あるいはロシアの核兵器は古すぎてフィンランド領で爆発させられるものなどないのか、そんなところでしょう。

フィンランドは小国ですが、フィンランドの歴史をある程度知っている人なら、NATO加盟ニュースに、私のように、歴史が変わったことを感じたのではないでしょうか。今回のウクライナ戦争で、IT技術が国家経済だけでなく国家の軍事力にも大きな影響を与えていることが明らかになったはずです。プライバシー保護だとか、情報弱者の救済だとか、くだらない反対で社会全体のIT化を遅らせるのは、国家の安全保障をも脅かすことに、日本人も気づくべきではないでしょうか。

 

2022年11月29日追記:今読むと、上の記述はフィンランドに対する私の無知によるものだと痛感します。フィンランドNATOに加盟する可能性は21世紀に入った頃から十分ありました。ここ10年のフィンランドの安全保障の本を読むと、「フィンランドは『現時点で』NATOには加盟していない(が、今後加盟する可能性はある)」という記述が散見されました。フィンランドが国家誕生以来、ロシアを恐れているのは事実で、冷戦時代から西側諸国の中で最大級とも言えるほどロシアに譲歩していた事実もありますが、一方で、ロシアを嫌う気持ちも国家誕生以来現在まで続いています。今回のNATO加盟も、深謀遠慮などなく、ウクライナ戦争の煽情的な報道で「ロシアが怖い」よりも「ロシアが嫌い」の世論が勝っただけかもしれません。