未来社会の道しるべ

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炎上から学べること

「炎上するバカさせるバカ」(中川淳一郎著、小学館新書)は大きいものから小さいものまで100以上のネット炎上事件が紹介されています。しかし、著者は学習能力が低かったのか、次のようなくだらないネットのプチ炎上事件を起こしたと白状しています。

ダイヤモンド・プリンセス号での許可なし撮影と情報発信で炎上した岩田健太郎が2021年8月に次のようにツイートしたそうです。

<とりあえず今は非常時なので、命と健康を優先させるべきです。少なくとも、一定の地域では。体育も友人関係もあとでいくらでも取り返せます、生きていれば>

もともとコロナ自粛に反対で、岩田も大嫌いだった著者は次のようにツイートします。

<そろそろ調子に乗るのやめてもらえませんか? いつまで「非常時」を言い続けて注目を浴び、信者から感謝される人生を続けたいのですか? あなたの個人的な快楽と承認欲求を満たす発言が、本当に社会全体をおかしくするのですが。日本人はバカが多いのであなたを信じるのです。批判にも向き合ってください>

岩田の反論ツイート。

<日本人がバカが多いとは必ずしも思いませんが、あなたのコメントがまったく的を射ていないのは事実です。この問題でぼくらが快感を得ていると信じ込んでいるなど、あなたの脳内にしかない空想世界です。調子に乗っているのはあなたです>

著者の反論ツイート。

<あなたが調子に乗っているだけです。本当にいい加減にしてください。あなたはダイヤモンド・プリンセスに数時間乗り込んで世界に「日本の恥部」を晒して悦に入ったかもしれませんが、その後、欧米各国よりも日本がマシだったことについてはだんまりを決め込む。それで今も恐怖を煽り続けています>

これにより、岩田は著者をブロックしたので、著者もブロック返しをしたそうです。このプチ炎上は、さらに延焼します。著者の義姉がこの論争に割って入ったのです。

<薬剤師をしている中川(著者)の親類です。新人だった頃、岩田先生の書籍で研修医の先生方と知識を高め合ったりしていました。中川氏はなんでこんな失礼なことを書いているのか。ちゃんと取材して述べているのか。恥ずかしいです。本当に申し訳ありません>

著者は義姉に反論し、縁を切る宣言をしたそうです。

こんなくだらないことで、義姉と絶縁していいのでしょうか。この国で。殺したいほど両親が嫌いで、親戚つきあいなど一切したくない、と考えている自分でも、ここまでどうでもいい問題で絶縁しようとは思いません。

確かに、コロナ自粛は大きな問題で、その影響は個人としても社会としても甚大です。しかし、一介の医師と一介のジャーナリストの議論で、しかもtwitter上の議論で、コロナ自粛に影響が出るわけがありません。どっちが圧勝しても、どっちが完敗を認めても、コロナ自粛の政策は一切変わりません。こんな議論に義姉との親戚つきあいを掛ける価値は全くありません。

西洋式討論術」に示したように、これは議論として成立していません。著者は岩田の「友人関係はあとでいくらでも取り戻せる(から自粛すべきだ)」という意見に反論したいのでしょうから、「友人関係はあとでいくらでも取り戻せない(から自粛すべきでない)」事実を述べるべきです。たとえば、著者は本で「50代の岩田氏と子どもや若者の2年間は同じなわけがない」「コロナ自粛のせいで日本人の出会いの機会が減少して、婚姻数も減った」と書いています。それらの事実で岩田に反論すべきだったのに、感情的になって岩田への人格攻撃をしています。岩田も岩田で、こんなくだらない人格攻撃にわざわざ反論しています。私が岩田なら、無視しています。義姉も著者をたしなめるなら、著者に直接連絡すればいいのに、なぜか公開ネット上で意見を発しています。

著者は結論として本にこう書いています。

<炎上はないに越したことはないが、ネットがある以上、炎上はついてまわる。それはそれで割り切って、現世での人間関係を皆さん大事にしてください>

だったら、上記のようなくだらない炎上で現世の親戚と絶縁しないでください、と誰もが思うでしょう。著者も頭の中でそれに気づいたのか、次のように続けています。

<ネットで現れる本音の感情は案外その人物の本音でもあるので、リトマス試験紙として縁を切るべき人間を見つけられるかもしれない>

これを書いていて、著者は上記のtwitterコロナ論争が「リトマス試験紙」ほどの明確な判断基準にならないことに気づかなかったのでしょうか。もちろん、義姉が岩田の意見に賛成なのは本音ですが、だからといって、それが絶縁の判断基準なのでしょうか。著者は日本のコロナ自粛賛成派の全員と縁を切る気なのでしょうか。

こちらのブログで何度も書いているように、私も著者同様にコロナ自粛反対派ですが、コロナ自粛賛成派と絶縁したいとまでは考えていません。というより、コロナ自粛賛成派といちいち絶縁していたら、社会生活が送れません。コロナ自粛賛成派の意見にも一理あることは私も認めていますし、コロナ自粛賛成派だからといって、その人の全てが否定されてはいけないことも私は知っています。

もし私が著者と同じような失敗で義姉と絶縁したのなら、「あの時は冷静さを欠いていました。謝って許してくれるのなら、いくらでも謝ります。ぜひとも仲直りしていただけないでしょうか?」と、人を介したりして、連絡するでしょう。もし義姉が話の通じる人なら、「あの時は公開のネット上で注意する前に、私に直接連絡いただきたかったです」くらいは、ほとぼりが冷めたら、伝えているかもしれません。

著者は「炎上するバカさせるバカ」「炎上はないに越したことはない」と書いていますが、私は必ずしもそうとは思いません。炎上するほど議論すべき時もありますし、知性の高い人が炎上したり、させたりすることもありますし、炎上から人が学べることもあるからです。