未来社会の道しるべ

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持続可能社会のために日本の森林を利用すべきである

地方(田舎)への税金投入を批判した一連の記事を書いたので、まだ十分な知識を持っていませんが、地方で必ず税金投入すべき森林対策についての記事を書いておきます。主な参考文献は「林業がつくる日本の森林」(藤森隆郎著、築地書館)です。

日本では室町時代から商業的な針葉樹人工林の育成が行われていた記録があるそうですが、各地で本格的な育成林業が行われるようになったのは江戸時代で今から400年前になります。その頃の森林は村民で共有し、農業とも絡めて多面的に利用した入会林が広大な面積を占めていました。明治時代になり、その多くが国有林や公有林に編入されましたが、所有を巡った紛争が絶えず、境界が不明確であったこともあり、森林管理に大きな乱れが生じました。国家財政上の必要から国有林などへの伐採圧が高まって、明治時代に日本の森林は大きく荒れ、減少しました。

この段落は余談です。名前は忘れましたが、最近、二つくらいの本で「産業革命以前は森林が豊富との印象は幻想で、江戸時代の方が森林は破壊されていた」と読んだ記憶があります。江戸末期の写真や葛飾北斎の絵などが、山に木がないことが根拠のようでした。こちらのHPにあるように、奈良時代から環境破壊が都市の寿命を短くしてきたのは事実ですが、遅くとも江戸時代には森林破壊の危険性が認識されていました。都市や宿場町周辺はともかく、日本全体の森林量では、江戸末期が明治時代より豊富だったようです。

1897年に水害を招くような過剰な伐採や開発などに規制を加える森林法ができました。この森林法は改正により、森林資源の保続と培養を目的とするものに進展していき、1900年頃からは積極的な造林活動が全国で展開されるようになります。しかし、第二次世界大戦の異常事態のため日本中で過剰伐採が行われ、森林は減少してしまいます。

さらに戦後、住宅のための資材、薪の需要が増大し、経済界や政界は奥地林の開発を含む増伐キャンペーンを続けました。林野庁は森林資源の保続政策を重視し、森林の年間成長量を越えない範囲での収穫を訴えましたが、大新聞の社説までそろって林野庁の批判に回っていたため、人工林は若くても伐られ、天然林も過剰に伐採されました。その跡地に人工林が植えられ、人工林の面積は1970年代までの20年間でそれまでの2倍になりました。その結果、日本の全森林面積のうち人工林は40%に達しています。私もよく感じることですが、日本の森林を見ると1年中黒い針葉樹林が、広葉樹林と線を引いたような不自然な境界で接していたりします。

1990年代には1950年代からの人工林が収穫可能になり、日本の木材生産量は増大していくはずでした。しかし、現実には増大どころか減少していきます。1960年代に木材関連の輸入自由化を推進し、安い外材が手に入るようになったためと、日本の人件費が高騰してきたためです。結果、日本の森林の40%を占める人工林は間伐もされず放置され、強風や冠雪や豪雨被害を受けやすくなっています。さらに、閉鎖したスギやヒノキの人工林の内側は非常に暗いため、下層植生が極めて乏しく、生物多様性と水源涵養力が低くなっています。

密集したスギやヒノキの不健全な人工林が多い問題は、日本の森林について少しでも知っている人なら聞いたことがあるでしょう。だから、適切な間伐を行い、下草の生えた健全な森を作るべきだ、という意見は20年前から私も耳にしています。しかし、実際にはろくに進展していません。やはり日本の高い人件費が障壁になっているのでしょうか。

上記の本の著者は、人件費だけの問題ではない、と主張します。なぜなら、国際材価は1970年代から一貫して変わっていません。それにもかかわらず、日本同様に人件費の高い他の先進国では1970年代から木材生産量は2倍に増えていたりします。同時代に日本が木材生産量を3分の1まで減らしたのは、日本の木材生産者たちの古い体質と旧態依然の国産在流通システムの改善の遅れがあったからのようです。現在、日本の森林の材積成長量は年間8000万立方mで、木材需要量は年間7000万立方mです。計算上では日本の木材需要は全て日本の生産量で賄えるにもかかわらず、木材自給率は28%です。

地球温暖化を促進する化石燃料の依存度を低め、持続可能な社会を作っていくためにも、この余裕のある材積成長量を利用しないのは明らかにもったいないでしょう。森林はカーボンニュートラルなエネルギー源であり、鉄やアルミニウムの加工に要するエネルギーの100分の1から1000分の1のエネルギーで木材は加工できます。化石燃料の依存度を下げるために水力、風力、太陽熱はよく注目されますが、自然条件に左右されないエネルギー源として、どうしても火力は必要でしょう。それにもかかわらず、森林破壊のイメージがあるせいか、森林はエネルギー源として注目されていない気が私はします。ネットで閲覧できる「木質バイオマスエネルギー データブック 2018」にもあるように、既に森林からのバイオマスエネルギーは太陽エネルギーより発電能力があります。今後さらに有効活用が進めば、ほぼ限界まで達している水力エネルギー以上に森林がエネルギー源になることは間違いないでしょう。反対にしろ推進にしろ原発について意見を持っている人は、それくらいの基礎知識は持っておくべきだと思います。

次の記事に続きます。