未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

密約は条約ではない

「知ってはいけない」(矢部宏治著、講談社現代新書)は現状の日米外交の根本的な欠陥を赤裸々に示してくれた素晴らしい本です。ただし、疑問点もあります。「密約でも、国際法である以上、必ず守らなければならない。それは世界の常識である」と断定していることです。

法学に詳しくない私でさえ、その正反対の国際法を知っています。条約は署名しただけでは効力を示さず、当事国の国会の批准が必要なことです(厳密には国会の批准に限らず、受諾や承認や加入もあります。Wikipediaの「条約」参照)。条約によっては必ずしも国会の批准が必要でない場合もありますが、政治的に重要な問題は国会の批准が必要というのが国際標準です。

上記の本に出てくる密約は、国家主権に関わるので、政治的に重要な問題であることは論をまちません。もちろん、密約を国会で批准しているわけがありません。だから、「国会の批准がないものは公的拘束力がない」と密約を今すぐ無視しても、法律上、全く問題はありません。むしろ、それが本来の姿です。しかし、現実には、日米間の密約が日本のすべての法、それこそ日本国憲法よりも上位に置かれています。

なぜそうなってしまうのでしょうか。

著者の指摘する通り、「砂川裁判で司法が日米外交について憲法判断を放棄してしまったから」は間違いなく、根本原因の一つです。また、日米合同委員会と日米安保協議委員会が内閣や国会以上の権力をしばしば持っていることも大きいはずです。

つまり、アメリカ軍が日本の主権を犯していることに、日本の行政と司法のエリートたちが60年間も黙認していたことが原因です。なぜ、こんな異常な状況が長年続いているのでしょうか。

日本の行政と司法のエリートたちは、1957年に米軍兵士が遊び半分で日本人女性を射殺しても、密約で犯人を執行猶予にさせています。日本の中枢にいる彼らにも人として最低限の倫理観はあるはずなのに、どうしてそれを踏みにじってまで米軍におもねるのでしょうか。どうして同胞の日本人の味方をしないのでしょうか。そこまで日本人が嫌いなのでしょうか。私には完全に理解できないので、日本の行政と司法のエリートたちに、そうする理由を誰か今すぐ聞いてください。

 

※2020年6月7日追記

上記の嫌味は今読み返すと、恥ずかしいです。

「知ってはいけない」の後に出版された「日米地位協定」(山本章子著、中公新書)を読んでいたら、上のような記事は書かなかったでしょう。「日米地位協定」は学者による本なので、「知ってはいけない」よりは漏れのない事実に基づいて書かれています。「日米地位協定」を読めば、「知ってはいけない」にはいくつか間違いがあると分かります。上記でも指摘している「国家間の約束なら、密約でも守らなければいけない」は、やはり明らかな間違いです。たとえば、沖縄米軍の飛行訓練の制限は日米間で何度も取り決めていますが、アメリカはいつも守っていません。どうも、日本だけでなく、米軍も国家間の約束の引継ぎがうまくいっていないことが原因のようです。